アネモネ

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魔王城は瘴気が漂っていて2人は鼻を覆っていた。 瘴気なんて気にならない。レイに会える、近くにいる。 「レイ…」 幹部はみんな俺のマジックボックスの中だ。殺しはしていない。レイが悲しむから。 2人とも消耗してる。俺も多少消耗しているが、そこまでではない。 重たい扉を引けば魔王としか言いようがない装いのレイが座っていた。 俺を見て少し瞳が揺らいだのがよくわかる。 レイは立ち上がって何も言わずに魔法陣を展開させる。 俺はそんなレイの元へテレポートして、強く抱きついた。 「っ……、マクス…」 「レイ、俺がどれだけ泣いたかわかる?」 その名前に2人は驚きを隠せないと言った表情を見せた。だってレイが男だった事も魔王だった事も言ってないから。 「違う、違いますよマクス…、なぜわかってくれないのですか…?貴方が心優しいのは知っています。幹部も殺さないでいてくれたのも、魔物も殺さないで来てくれたのも…」 「なんも、なんもわかんないよレイ…、なんで幸せになっちゃ駄目なの?逃げようよ。2人でいよう、俺は世界より君を愛したい」 顔を上げればレイは辛そうな顔をしていた。 「…この物語は貴方が俺を殺さなきゃ終わらないんです。世界から追われる事は魔族が死ぬ事を表してます。俺だけが死ねば魔族は死なないし貴方はヒーローになれる。あ、貴方なんて嫌いです……、だから早く、俺を殺して…」 「っ……なんで…」 涙が止まらない。君を愛するのは罪なの?嫌いだなんて、言わないでよ…! 殺すなんてこと出来ない。レイを問いただす様に揺さぶれば、カツン、と何か音がした。俺より先にそれに反応したのはレイ。 「ゆ、指輪…!」 レイは俺から離れてそれを拾った。なんで、嫌いなんじゃないの。なんでそんなおもちゃ大事にしてくれてるの。 レイを追いかけようと踏み出した瞬間、魔力弾がレイに当たった。どこからも詠唱も聞こえず、離れていたし、突然だった為に俺はそれを防ぐ事が出来なかった。 「や、やった、やった!レイだかなんだか知らないけどマクスの隣は私…!!魔王はさっさと死ねよ!」 マリンだ。有り得ない、なんでそんな事をする。よろ、とレイは足を崩した。 「レイ!」 「っ……」 脇から大量の血を流している。レイは初手からやられるつもりだった様で弱体化のバフがかかっている。なんで、なんでそうなるの。 俺はレイを抱えて窓から飛び降りた。必死で出したテレポートでどこかわからない花畑の様なところに来た。 「レイ、レイ…」 俺はレイの頭を膝に乗せて弱体化のバフを解いて自分の魔力を注ぐ。 人間の傷を塞ぐ神聖魔法は魔王であるレイには毒だ。治すことができない。 「……マクス、もう良いです。これで終われるなら本望ですよ。嫌いだなんて言って、ごめんなさい」 最後みたいな言葉を言うレイの言葉を俺は遮って、気を紛らわせた。 「そ、そうだ!これが治ったらデートに行こう。レイが好きな串焼きたくさん食べようよ」 「……ねえマクス」 「結婚式は?今度はちゃんとした指輪買うよ。どこが良いかな、俺は教会は嫌なんだ。2人だけで誓える所がいいよね。指輪の採寸も行こう」 「…マクス聞いて」 「同棲して、俺は最後まで2人きりが良いな。森とかに家建てようよ。それで死ぬまで一緒に過ごそう?それまで色んなところデートに行こう。」 「マクス」 頬に手が触れた。冷たくて、驚く。指輪よりも熱を持っていない手だ。 「凄く良いと思います…」 「だよね…!じゃ、じゃあ…」 「でも俺はもう出来ないから。マクスに会えて嬉しかった。楽しかったです。あの日俺、世界と俺に必死なマクスが好きって言いましたよね」 けほん、と咳をしてレイはそう口にする。 「っ……そんな、遺言みたいなこと言わないで…」 「実はあれちょっとだけ嘘なんです。世界と俺にちゃんと向き合おうとする貴方が好きなの。」 「………」 「マクスって、泣き虫ですよね」 レイは俺の目元を拭って、にこりと微笑む。 「町の祭りで踊ったの、まだ覚えてます。貴方は踊りがとても下手でしたよね」 「っ…レイだって、下手だったよ」   垂れる鼻水を拭って俺はレイに言い返した。 「人間が憎かった。魔族を無闇に傷つけるから。ただ、貴方を介してわかりました。人間は築き上げたものを壊されるのを異様に怖がっているだけなのだと。」 「……レイ、傷が広がるから…もう、」 「もうマクスの魔力もなくなるでしょう。延命させてくれてありがとう。 来世は貴方と家族になれますか…?」 泣き虫とか言っておきながらレイも泣いてるじゃん。魔力濃度が薄くなった気がする。俺はもっと強く魔力を込めた。 「当たり前でしょ!今世だってなれるよ!来世も、来来世も、ずっと!」 「ふふ、バカですね…」 レイは咳をして、そう笑う。もう喋んないで、レイが死んじゃうから、お願い、嫌だ。 「マクス、愛しています」 レイは身体を起こすと冷たくて震える手で俺にキスをした。唇はとても冷たい。 それと同時に、俺の魔力は底を尽きて、レイはずるりと俺の膝の上に落ちた。 「レイ、俺も愛してるよ。ねぇ、レイ、聞いてる?無視しないで。返事して。お願いだから。置いていかないで」 レイを抱きしめて、何度もキスして息を幾度となく吹き込む。 「……レイ」 俺たち、悪いことしたかな。してないよ。なんで勇者と魔王に生まれちゃったんだろうね。 次はお互い平民同士で特出した何かがないと良いな。…人間同士じゃなくたっていいよ。猫でも、犬でも、平和に暮らせるならそれで良い。 レイが腰に携えている剣を抜くと俺は躊躇なくそれを心臓に刺した。 「…心臓が右か左かも覚えてないや…、レイ、バカですねって言って…?来世でもいいから。」 ぼーっとレイの近くを見つめればアネモネを見つけた。 「あの後、自分で花言葉調べたんだよ、レイ。どの色も苦しい恋って花言葉があったね」 俺は震える手で紫のアネモネを手に取り、レイの胸の上に置いた。 「俺の事、待っててね、レイ…」 俺はそう笑ってレイにキスをし、ゆっくりと瞳を閉じた。
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