色狂いの老いぼれ公爵

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色狂いの老いぼれ公爵

「私には愛する人がいる。君を愛することはないよ」  辺境に建つ公爵の居城に着いた直後、執務室で二人きり。震える手で婚姻届に署名すると、私の祖父と同じ年齢の公爵がそう言って微笑んだ。輝く金髪に青い瞳の公爵は年齢よりも若々しく、父と比べても若く見える。その端正な顔立ちに、ときめきを覚えた瞬間だった。  公爵は十年前に最初の妻を亡くしてから、成人前の若い令嬢を次々と娶っていた。令嬢は何故か数か月で命を落とし、公爵は別の若い妻を迎える。『色狂いの老いぼれ公爵』と呼ばれ、令嬢たちの短命さについて酷い噂が国中に流れていた。  それでも誰も止められなかったのは、公爵が現王の弟であること。そして隣国に接する領地を持ち、国境を護る兵を率いている為。  私の生家の子爵家は、両親と兄の散財と領地の不作続きで没落寸前だった。先祖伝来の美術品や宝石類を売りさばき、売れる物が無くなった時、私は王都の学舎から呼び戻された。 『公爵夫人となるか、娼婦になるか選べ』  それが久々に聞く父の声だった。『老いぼれ公爵』の二十三人目の妻になるか、娼館に行くしか道はないと言われ、私は公爵夫人を選択した。 「あ、あの……それでは、私は何をすれば良いのでしょうか」  公爵には子供がいない。後継者は現王の息子の第二王子と噂されていても、貴族の娘は婚家の血を繋ぐことが至上命令と教えられてきた。 「馬車の旅で疲れているとは思うが、明日から勉強してもらうよ。今日はゆっくり休みなさい」  そう言って、公爵は優しく微笑んだ。
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