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黒須side-2
それからも何度もそういうことが起きるのだ。いちいち他の誰かを薦めてきたり、間に入って誰かと俺を繋げようとする。
――めっちゃ迷惑なんだけど。
当然そんな気持ちも言えなくて。話しかけられたら嬉しくて一瞬期待して転落するの繰り返し。谷川にとって俺はただの親しくしている同期にすぎないようだった。
「無理だよ、志織はちょっと鈍いし、近いところで恋愛しないタイプだよ」
同期の柴田にそう言われた。
柴田は最初に俺との橋渡しのために谷川を使った咲ちゃんだけど。
「ぜんっぜん気にした感じなかったよ?黒須とご飯セッティング頼んだ時も。なんなら任せとけ!みたいな感じ。回りくどいと絶対無理だから本気なら直球がいいよ?」
「直球なんか無理じゃん……撃沈するの見えてるし。谷川って振った相手に優しくしたら悪いとか思って距離置きそうっていうか……そうなったらもう今までみたいに絶対話せなくなる」
「うざ……黒須って見た目と中身のギャップヤバいよね。ギャップ萎え……」
「お前さぁ、最初は俺に好意あって近づいてきたよなぁ!?」
「知らないって残酷だよね……黒須は見た目である意味損してる、残念」
それは長年周りに言われていることだった。
俺は恋に臆病で、完全にチキン。全然好きな子にアプローチが出来ない。
「篤史はさぁ、好きな子に恋の悩みを打ち明けられて協力しちゃうような優しいだけの男になっちゃうんだよな~、ほんと残念。営業の交渉術なんで好きな子に使えないわけ」
「うるせぇよ……」
同じ営業の手塚に言われて悔しいが何も言い返せない。人にそう言えるくらい交渉術がうまい手塚はさっさと気持ちを伝えて隣に座るその咲ちゃんとくっついた。
「お前らがうまくいったのはそもそも俺のおかげだろ」
「キッカケなだけ、篤史は別になにもしてない」
俺に近づいた咲ちゃんこと柴田は早々に俺のチキンっぷりに気づいて俺と仲良くしていた同期の手塚にあっさり気持ちをシフトした。そこを見逃さなかった手塚もまたタイミングを外さず咲ちゃんを落として晴れて二人は付き合っている。
「そうやってうじうじしてるからさぁ……志織、彼氏できちゃったよ」
――え
「この間高校の同窓会行って、その流れで……転勤族の人で今は九州らしいから気軽には会えないって言ってたけど。適齢期、高校の同級生、会えない遠距離……結婚しようって流れにすぐなるかもねぇ~」
「……」
「篤史?生きてる?大丈夫?」
真面目で自分の意思を持った谷川。
相手にも自分にも誠実な彼女は、会えない彼氏ときっと時間を上手に作って愛を育んでいくんだろう。そんな彼女を手放す男がいるのだろうか、いやいない、いるわけない。
俺なら絶対手放さない、遠距離なんて状況なら告白じゃなくプロポーズしてると思う。
そんな自分に置き換えてありえない妄想ばかりしてなにひとつ手に入れられない俺。
彼女はこんなに近くにいるのに、遠い。俺に見せてくれる笑顔も同期のよしみ、話すのは俺のことじゃない、俺よりも遠くにいる彼氏のことばかり。
距離が一ミリだって縮まらない。
谷川の瞳には、俺は一度もひとりの男として映ってはくれないんだ――。
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