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第1話 サッと助けるのイケメンかよ
課長に呼ばれて発注データ履歴を見直してハッとした。
「これ、注文桁数おかしくないかな?」
「すみません!間違えてます!」
「あちゃー、ちょっとエライ数届くことになるな……こりゃ……俺もちゃんと確認しなかったけど……まいったな」
課長はキツく怒りはしなかったけど、明らかに面倒くさそうに頭を抱えてしまって申し訳ない気持ちになる。
「本当にすみません……こんなミス……私、営業にも掛け合ってみます!」
そんな私の声を聞いていたのか、同期の黒須が声をかけてきた。
「やらかしたん?」
「……やらかした」
「見せて」
「え?」
発注した商品書類を見ながら「ふんふん」と大げさに言いながらニヤリと笑って言ってきた。
「これ、俺が捌いてやろうか?需要ある企業心当たりある」
「うそ!本当?」
黒須は営業のエースだ。
「課長に俺の名前出しとけ、二日ほどちょうだい」
「黒須~神様?崇めるわ」
「うまく行ってから崇めて奉れ」
「土下座する」
「女に土下座されて喜ぶ男いねーわ」
そう言って颯爽と事務所に戻って本当に二日後取引先と商談を決めてきてくれた。
「本当にありがとう、助かった」
両掌を顔の前で合わせて頭を下げつつ崇めるようにお礼を言った。
「いーよ。まぁ今晩奢ってもらおうかな」
「何でも奢ります、ボトル入れてもいいよ」
「マジかよ、めっちゃ太っ腹じゃん」
「それくらい嬉しいってこと、ありがと、黒須」
心からそう言ったら黒須は少し照れたように俯いて咳払い、なんだ、黒須も照れたりするんだ、と内心笑ってしまった。
「お店、私が決めていい?」
「うん、俺これからちょっと出るからそこから直接行くし携帯入れといて」
「了解しました」
敬礼すると笑われた。
「今日は谷川、なんでも言うこと聞いてくれそうだな」
「はい、黒須殿には頭が上がりませぬ」
「はは、楽しみだな、夜」
ニカッと白い歯を見せて笑う顔は誰が見ても見惚れるほどカッコいいんだ。
(本当に契約決めてきちゃうんだもんなぁ。かっこいいどころじゃないよ)
スラッとした長い足で軽快に歩く姿、スーツが似合いすぎて見とれてしまう。爽やかな笑顔に優しい口調、笑顔がくしゃっとしてちょっとだけ幼くなるのがまた可愛くて。
(かっこいいくせに可愛い部分もちらつかせてさ。モテるしかないんだよ、黒須って)
自慢の同期。信頼できる同期、黒須は私にとってずっとそんな人だ。
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