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第3話 切なくなるのは年のせい?
恐る恐る横を振り向いたら私よりも年上の落ち着いた感じの男性がまたニコッと微笑んでいる。
これは……どう対応したらいいんだろうか。
ドラマではどういう流れ?リアルはどうするの?これ、本当にリアルの話?夢?夢ならどこから夢?もうよくわからない。
頭の中でぐるぐるしていたら隣にフワッと人の気配がして気づいたらその男性が横に来ていた。
「お一人ですか?」
……ドラマっぽい。
「あの、これ……」
「飲みやすいから良かったらどうぞ?」
赤色よりは薄くて朱色のような綺麗なお酒。これがなんのお酒か詳しくないからわからないが甘い香りはする。
「ど、どうも……」
押し進められるように促されて雰囲気に飲まれたのかもしれない。
言われるがまま手を伸ばして口にソッとつけてしまった。
「ん……甘い……」
でもその後喉を通るときにカッとなるような熱を感じた。
「これ……なんの……」
そう聞きかけたとき、グラスを横から取られてその手に視線が行った。
「ツレにちょっかいかけんのやめてもらえます?」
「……やっぱり待ち合わせだったんだ」
失礼、とその男性はそのまま席を立って行ってしまった。
「おつかれ、さま」
少し怒った感じの黒須にそう声をかけても無視されて、黒須はグラスに鼻をつけて匂いを嗅いでいる。
「これ飲んだの?」
「一口だけ?」
「飲むなよ、どこの誰かもわかんないヤツに出された酒を。しかもこれ……」
「甘かった……」
呑気な感想をこぼしたらチッと舌打ちされた。
その態度にちょっとイラっとしてしまって私も言わなくていい事を言ってしまった。
「黒須が遅いからじゃん。喉乾いてたし……」
「それは悪かったけど!でもさぁ……いや、ごめん。遅れて」
「……ううん、ありがと。ああいうの慣れてないからどう対処していいかわかんなかった、びっくりして断れなかったの」
「……彼氏来るからって言え、そう言うときは」
不貞腐れたように黒須が言う言葉に吹き出した。
「来ないもん」
「え?」
「待ってても来ないし、待ってたって来ない、もう来ない」
「……別れたの?」
「来てくれたの黒須だけだよ」
なんだか気持ちがむしゃくしゃしてきた。
仕事のミスも、恋も、大人の対応ができない自分も、なにもかも。
情けなくて、虚しくて、なんだか寂しい。
大人になる程……寂しいことが増える。自分が、寂しい人間に思える。
「ちょっとそれちょうだいよ!」
黒須が持つグラスを奪い取ってグーッと飲んだ。
「おい!バカ!それ……」
はぁー、っと飲んで吐き出した息がやたら熱い。身体が、燃えるように熱い。
気づくと私はベッドの上にいた。
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