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第5話 地獄の巻き戻しタイム
奪い取ったお酒はロブ・ロイというスコッチウイスキーとスイートベルモットのカクテルだったらしい。名前を聞いてもよくわからないが、スイートベルモットで甘さが感じられるがアルコール度数のかなり高いお酒だったと言う。
「あんなん勧めてくる男、マジで気をつけろよ。即効酔わされてヤられてる」
「ごめん……」
「結局それ一杯飲みきっちゃって、その後なんか火がついたんだよな、まだ飲みたいって。チャイナブルーてカクテル気に入ってさ、あれ二杯飲んでたな」
「チャイナブルー……」
「青くてキレ~とか言って……ないな、記憶」
「ごめん……」
基本ごめん、しか言えない。
「そこから仕事のミスのこと平謝りされて自分のダメさをいっぱい語り出して気づいたら泣き上戸」
「ごめん……」
「もうさすがに酔いすぎだと思って帰ろうとしたらさ、谷川が……」
怖い沈黙。
「……なに?」
「吐きそうって」
「ごめん!!」
「とりあえず店で吐いて……フラフラだしまだ気分悪そうだし仕方ないよな。ここまで連れてきた。一応、入る前に同意は得たよ?」
「ごめんなさい……本当にご迷惑をおかけして……申し訳ない」
話を聞いても思い出せそうにないが、思い出したくない気持ちもあってもう平謝りするしかない。
「ここまでで記憶やっぱりないの?」
「うーん……ごめん」
「ここから先は?」
「え?」
ジッと見つめられてドキリとする。黒須にこんな風に見つめられるのは初めてだ。
「ここからは出来たら思い出してほしい」
「えっと……」
「ホテルに入ってベッドに寝かせて……どうしようかなって思ってた。放っても行けないけど、このままいるのもちょっと辛いなって……そしたら谷川が……」
また怖い沈黙。
「寂しいって……」
黒須の吐き出したセリフに顔がカァッッと熱くなった。
「行かないでって、行っちゃやだってめっちゃ可愛いセリフ吐いてさ……ダメだろ、それ。ラブホで酔って、理性ギリギリ保ってる男にそれ、ダメじゃん」
「……ご、めん」
「でもやっぱりこんなんダメだわって思って距離取ろうとしたら……」
もういちいち沈黙やめてほしい。
「今度めっちゃ甘えてきて……抱っこして、ぎゅーしてって……あれ地獄だった」
「…………ご、ごめんっ」
聞かされる私も地獄。
「抱きついてきてさ……チューしてほしいって」
嘘。
「いっぱいチューして抱きしめてって」
嘘だろ。勘弁してくれ、私よ……。
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