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第6話 見つめた現実と、その辛さ
でもなにより恐ろしかったのはその時だ。そこのセリフを聞いて私の脳内の記憶が瞬間震えた。ここで、記憶が戻るの勘弁してほしい。
「出来ねぇよって……そんなんしたら止まれないのわかってたし……そしたら……「ごめん」
「え?」
ベッドに突っ伏して謝る私を見て察しのいい黒須は気付いたようだ。
「あ、思い出した?うそ、ここからわかる?やった、サイコー」
「なにが最高?!最低じゃん!!私……」
アワアワする私をよそに黒須はさっきまでとは打って変わって楽しそうに話し始める。
「そうそう、出来ないなら私がしてあげるって。自分からキスしてきてさぁ……めっちゃひっついてきてなんならのしかかってきて……「ぎゃー!もうやめてぇぇ!!ごめん!本当に本当にごめんんん!!!!」
「覚えてる?思い出した?」
「……はい」
「なら良かった、あれなかったことにされるの辛いからさ」
え?
「記憶なくなるかもしれんなぁって覚悟して抱いたけどさ、忘れてほしいわけないじゃん」
「え……それは、どういう……」
「全然気づいてくんないよなぁ。他のヤツらは結構気づいてんのにさぁ、俺がずっと谷川のこと好きなの」
え?
「なぁ、もう本当に別れたの?彼氏と」
「……え?えっと……別れて、る、みたいなもん?」
「やっぱりまだ別れてねーじゃん……酔ってる口では別れた別れたって言うから……くそ、まだ切れてねーのかよ」
「いや、もう限りなく切れてる関係だよ?ひと月連絡ないしもう、ほんとに終わってると思う」
「ならちゃんと終わらせろ。谷川から切れ!谷川から別れよう、さようならって言えばそんで終わりの話なんだよ!なんで繋がってないとダメなんだよ、あとでなんか言ってきたって知るかよ、ほったらかしにしといて今さら言ってくんな」
黒須が悔しそうに言う、私よりも悔しそうに、怒っている。その顔を見てどうしようもない切なさが胸を襲ってきた。
「谷川ばっかりじゃんか。会いに行くのも、待つのも……向こうから谷川を思ってやってること俺が知ってる限りねぇよ。なのに、なんでそんな相手に谷川だけがいつまでも誠実に向き合ってんだよ」
「……私、誠実じゃないよ。なにも、してない、なにも……」
「それは応えてくれない相手だからじゃないの?誠実にされたら誠実に返すよ、普通そうだよ。優しくしたいのだって優しくしてもらうからだ。人なんてそんなもんだよ、嬉しかった気持ちは返したいし、喜ばせたいってなる。相手のためにするのはさ……自分がしてもらってるからだ」
ポロリ、涙がこぼれ落ちた。
「好きなら……会いにくるよ。どんなに遠くてもさ」
黒須が見つめながら言う。
「会えないから、会いたくて会いにくるんだよ、好きだから」
黒須の言葉に胸が締め付けられた。痛いほど、胸に刺さって……鼻の奥がツンッとした。
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