第7話 別れのタイミング

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第7話 別れのタイミング

 どこかで分かってた。彼がもう私を好きじゃないんだと。理由は色々あっても結論それなのだ、好きじゃなくなったんだ、彼にとって私は、無になった。  別れようと言われた方が良かった、さよならと言ってくれた方がよっぽどスッキリする、何も……言ってくれないことがどれだけ寂しくて辛いか。  何も投げてくれないことが相手の私への対応の仕方なのだと思うとどうしようもなくやるせなかった。  好きと思い合って付き合ったのに、気持ちはどんどん離れていく。会えない時間が、その距離を広げて止められなくなる。大人なんだから向き合おうよ、どんな結果になっても話せないかな、でも、私だってそれが出来なかった。すれ違った彼ともう一度顔を合わすことから逃げていただけだ。いつから人と真っ直ぐ見つめ合うことを避けだしたんだろう。  もう好きじゃないんだ、そう言われる現実から私は逃げているだけ。 「……ひっ……」 「そんなにまだ好きで別れたくないの?」 「ちが……自分が……情けなくて……」 「え、まだ酒残ってんの?また泣き上戸?」 「ちがう……ごめ、私だって……なにも伝えてないのに……泣く資格ないのに……」 「……もう別れてよ」  黒須の手が私の頬に伸びてきて、優しくソッと触れて指先が涙をぬぐってくれる。 「他の男で泣く谷川見たくないんだけど」 「……私……」 「今送って?男に別れようって、俺の前で送ってほしい」  真剣な顔でそう言ったと思ったらベッドを離れた。ソファに置かれた私のバッグを持ってきて差し出される。  バックから携帯を取り出して彼のライン画面を呼び出した。 【今までありがとう、わ】  ここまで打って指が止まる。フッと視界を上に上げると黒須の目とぶつかる。 「そこで止まんなよ、そっからだろ、大事なの」  視線を携帯画面に落としてそう言う。 【今までありがとう、別れよう。さようなら】 「送信」  黒須がいちいち言うから笑ってしまった。 「送信!早く押せ!」  送信、そのボタンを押してラインが送られて胸にポッカリ穴が空いた。これだけのこと、たったこれだけのことだった。でもこれが出来なかったのだ、一人では。  終わった、これでもう待たなくていい、期待しなくていい、ケジメをつけた。私は……次に行ってもいい。 「後悔してる?」  あんなに別れろと言って送信ボタンを急かしたくせに躊躇うように聞いてくるからまた笑ってしまう。 「してないよ……どうしてこれだけのことが出来なかったんだろうって……なにに縛られて待ってたんだろう」 「そんなん好きだったからだろ。好きだから待つし、諦めたくないじゃんか。終わりにするのは簡単だけど、自分が後悔するのが怖いじゃん、そんだけのことだろ」 「後悔は……ない」  そう答えたら見つめられた。  そんな風に見られると照れる、心の底から、照れる。 「晴れてフリー、おめでとう」 「ありがとう」 「ずっと前から好きなんで、付き合ってもらえますか」 「え?」  ナチュラルに言い過ぎだと思った。おめでとうからの流れにビックリが勝つ。ビックリして、その言葉を自分の中に落とし込むのに時間がかかってしまった。
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