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毎日配信をきっちりこなしていること。話す内容もバラエティーに富んでいて、今流行りのお菓子とか、好きな本の感想、リスナーからの相談に答えることもある。
私も一度会社で残業三昧で疲れているから歌を歌ってほしいと無茶ぶりをしたことがあったが、なんとそれに応えて私の好きな歌を歌って慰めてくれたこともあったのだ。
そんなことがあってから私の恋心は加速していき、彼にガチ恋するようになってしまった。
家の最寄り駅に着くと、いつものように3歳年上の幼馴染の高木 良平(たかぎ りょうへい)がいた。
「良平、いつも言ってるけど迎えに来なくていいんだよ?私だってもういい大人なんだから」
私は毎回申し訳なくてそう言うのだが、良平はそんなこと気にしていない様子で答える。
「家までの道、街頭がないところもあるだろ。それに最近痴漢も出たらしいから…お袋が行けってうるさいんだよ」
「うう。佐和子さんいい人…良平もごめんね。本当は彼女さんと過ごしたいんじゃないの?」
「彼女はいないからいいんだよ。第一実家に暮らしててこの時間に出歩いたらお袋がうるさいからな…」
うちの幼馴染は昔から私にすごく甘い。男の子にからかわれていたら、どこかからやってきて必ず助けてくれたし、彼氏と別れた時も行きつけのバーで閉店まで泣きながら飲む私を慰めてくれた。
私はそんな良平がお兄ちゃんみたいで大好きだったし、いつもお兄ちゃんみたいで大好きと伝えていた。
「ほら、帰るぞ」
そう言って良平は私の手首を掴んで歩き出す。変なくせだが、良平は私と幼い頃から手を繋ぎたがらない。何度か私から手を繋ごうとしたが振り解かれて手首を掴まれるので早々に手を繋ぐことは諦めてしまった。
(私手汗でも書いてるのかな?)
ちょっと気になって他の友達に手を繋いでもらったけどみんなそんなことはないと言ってるれるし、いまだにこの行動が謎なのだ。
「お前いつも残業してるけど周りの奴らはどうなってんだ?」
「みんな定時に上がるから私はいつも最後だよ」
「そんなに残業したってお前の評価が上がるわけじゃないのに、なんで仕事引き受けちまうんだよ」
「だって…仕事が終わらないんです助けてくださいて言われたら放って置けなくて、つい…」
「で、その言ってきたやつは定時で帰るんだろ?」
「うん…」
はあと大きなため息をついて良平は立ち止まって私の頭をわしゃわしゃと撫でる。その顔は呆れ切っていて何も言うことがないという風だった。
「良平呆れてる?私も自分に呆れてるけど、やっぱり放って置けなくて…単なる自己満足だってわかってるけど…でも平気!私にはsamがいるし!」
「あーのーなー!まだ例の配信見てんのか?半裸の男が色々話してるの聞いて何が楽しいんだよ。変態」
私はムッとした。いくら良平でも私の最大の癒しであるsamのことを馬鹿にされたのだから黙ってはいられない。
「samはそんなんじゃないよ!確かに半裸ではあるけど…声もトークも素敵だから好きなの。内面に恋してるんだからいいじゃない。そもそも私が誰に恋しようと良平には関係ないでしょ!」
「…それマジで言ってんの?」
珍しく良平が怒った声を出したので私はグッと黙った。
(いつも怒らない良平が起こるなんて、そんなに配信者への恋愛感情ってダメなことなのかな)
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