私はリスナー

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 私がしゅんとしょげると良平は私のおでこをパチンの指で弾いた。   「そんな顔するなよ。俺は…まあ、ほどほどにしておけよ。間違ってもストーカーとかになるなよ」  良平はそう言うと私の手首を掴んで歩き始めた。 (ストーカーかあ。思いが募っちゃったら…どうなるんだろう。私もそんなことしちゃうのかな)  私はぼんやりとそんなことを考えながら良平に引っ張られながら帰路についた。  家に着くと良平はさっさと家に入ってしまい、私はお休みもありがとうも言えずにため息をついて家に入る。 「ただいま〜って言っても誰もいないんだけどね」  私は今の会社に就職した直後、両親を事故で無くしている。だから家には誰もいないのだ。  そういえば、良平の過保護が始まったのもあの頃からだから両親がいなくなった私に気を遣ってくれていたのかもしれない。  私は大急ぎでシャワーを浴びて、冷蔵庫からビールを取り出し、冷凍した食事をチンして机に並べるとパソコンでsamの配信画面を表示した。  待合画面はsamの見事な腹筋がドーンと一画面に写っている。  私はその画面を見ながら夕飯をもぐもぐと食べて、配信時間を待った。 『皆さんこんばんはsamです』  落ち着いた低音ボイスが響いた時、私は缶ビールの栓を開ける。 (今日もいい声〜!この声聞くとビールが倍美味しくなるのよね)  私はビールをチョコりとあおってsamの声に耳を傾ける。 『今日はね、恋の悩みについて語らせてもらうよ。なかなか興味深い内容だったから選ばせていただきました。ペンネームは…書いてないからナナシさんって呼ばせてもらうね。ナナシさんには幼い頃から好きだった子がいて、ずっと見守っているのに一向に振り向いてくれなくて、何度か恋人ができたけど、いずれもクズだったから陰で手を回して別れさせていたんだって。晴れて今お互い恋人がいないチャンスが訪れたのに、今度は彼女が配信者にガチ恋をしてしまって頭を抱えている。どうしたらいいかって…これはなかなか由々しき事態だね。だけど根本的なことを言うようだけど、悪いのは相談者さんかな。だって君が勇気を出してその子に好きだと告白したら全て解決する話でしょ?それを裏から手を回したり、夢中になってる配信者から引き離そうとしたり、そんなの彼女は訳もわからないままでかわいそうだよ。ナナシさん。本当に彼女のことを思うのなら思い切って告白してごらん。彼女がそれに応えてくれるかはわからないけど今の状態だと君だって苦しいでしょ?さあ勇気を出して』
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