1.ゲームの中で人生やり直します

1/2
前へ
/230ページ
次へ

1.ゲームの中で人生やり直します

爽やかなそよ風に吹かれ、俺は目を覚ました 絵の具で描いたような真っ青な空 草が互いに擦れ合い、さわさわと耳に心地良い 目を開いた状態で、瞬きも忘れてその余韻に浸っている 「今日は天気が良いな……」 地面に仰向けに倒れた状況で、未だ意識ここにあらずと独り言をいう しかし段々と脳が覚醒し、今この状況がとても異様な光景であるものだと、漸く我に返る 「……あれ、てか、ここ、どこだ?なんで……外?」 意識がはっきりしだすと、次はそこはかとなくじわじわと焦りが生じ始める だって目覚めたら野外で、しかも森っぽいとこで、そこで寝てるって、おかしくね!? 「どこだよ!?ここは!?」 勢いに任せて起き上がり、自分でも驚くほど大きな声で叫んだ 辺りの木々に止まっていた野鳥たちが、一斉に飛び立つ 「一体どうして……俺、何してたんだっけ……」 とにかく状況を整理しようと、一旦深く深呼吸をし思い出せるところから記憶を辿る 確か昨日は大学受験の合格発表があった日で、俺は見事にそれに落ちて、ヤケになるどころか寧ろ開き直って、俺の大好きな長編作であるブレイク・ソード・ブレイブ通称BSBというゲームをリセットさせて最初からやり込もうと意気込んでいたんだ BSBは何度も繰り返し遊んでいて、縛りプレイやRTAやTAS動画なんかも作っていたりした そんな俺がこのゲームに最も入れ込んだ理由が、ストーリーよりも勇者で且つ主人公であるラシエル・アーマイトに強い憧れがあったからだ これはもう恋だと言っても過言ではない程このヒーローに魅了されていた より強く、より格好良くラシエルを美化していきたいと考えた俺は、ゲームをリセットさせてはプレイを重ねて、どんどん自身の腕が上手くなるほどラシエルの剣技、立ち振舞、その全てが磨かれていき…まあ、要は俺が受験落ちたのはそのせいだってことである。 両親には見せる顔が立たないと思いつつ、過ぎたことはしょうがないと開き直り、まずはゲームの電源を入れ、そして思い出す やる時は集中して一気にやり込むタイプなので、小腹が空いた時用にと、お菓子やジュースなんかを部屋に持参しておこうと 二階に部屋がある俺は、一階に降りて抜き足差し足忍び足で母親の目を掻い潜り、手に持ったお菓子やジュースを片手に、確か俺は、その時階段で足を滑らせ頭から落ちた あれ、俺、もしかしてそれで死んだ? え、しかもダサくね? 死因何になるの?受験失敗によるやけ食い現実逃避にも失敗して、親に顔向け出来ないようなめちゃくちゃ不孝者の死に方じゃん 下手したら友達笑ってんじゃないか? 「不謹慎な奴らめ!!」 また大声で叫んだ。だって叫ばずにいられるか、恥ずかしいにも程がある。穴があったら入りたい。あ、なるほどだからわざわざ森に来て、ここに穴を掘れってか?やかましいわ! 多分笑ってはいないだろう友達を罵倒して、羞恥心で爆発してしまいそうな程ひとしきり無意味に叫んだ後、少しずつ冷静さを取り戻す 「あああ……いや、てか、ここはどこなんだ?天国か?」 改めて辺りをキョロキョロと見渡す 見渡す限り木、草、青空!ただの森だよ本当に! 「でも何だか、見覚えあるような……?」
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加