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周りは次々と指輪の写真をSNSに投稿していく中、私は30歳を過ぎたのに結婚できない寂しさから、ペットショップで一目惚れしたうさぎを私の家族に迎え入れたのは少し前の話。私はうさぎを飼うまで寂しい時には紙を破いてしまったりした時もあった。でも、今はもうそんなことはなくなった。
そのうさぎのミントが、今日も遊んでほしいといわんばかりに休日だったので床に寝転んでいた私の方に駆け寄ってきた。たぶん、いつも行っているラビットランで遊びたいのだろうと思い、ミントのためだと思い、そこにミントを連れていくことにした。
ラビットランに着くと、いつも見かける人の他に一人見慣れない男の人が私のうさぎよりいくらか小さいうさぎと追いかけっこのようなものをしていた。
「こんにちは」
だから、初めましての意味も込めて、その人に軽く挨拶をしてみた。
「あ、こんにちは。初めまして」
その男の人が私の存在に気づくと、相手も軽く会釈してきた。
「うさぎって癒やされますよねー。僕は今独り身なので余計に」
「そうですよね。私もそんな理由で飼い始めました」
この人、少し私とにているかも。年齢も私と同じぐらいな感じがするし。
「今、僕、うさぎカフェで働いてるんですけど、いつの間にかとりこになってました。今日も夜から入ってます」
「へー、そうなんですね」
その男の人とそんな風に軽く会話を交わすと、ラビットランでミントと十分に汗をかくまで追いかけっこした。ミントの足は速いので、鬼ごっこをすると何度も何度も捕まってしまう。
ただ、いつの間にかオレンジ色の夕日がきれいに見える時間――夕方になっていた。ミントもお腹がすいているだろうし、私もかなりの空腹感。
ミントにもうそろそろ帰ろうかと言うと、ラビットランで遊んでいた他のうさぎたちにミントはお別れの挨拶のようなものをしてから、ラビットランを後にした。
家に着くと、まずはミントの夕食から作り始める。作るといってもペットフードと牧草を与えるだけの人間でいうとパックに入ったサラダを皿に盛り付けただけの手抜き料理に等しい感じだけど。
ミントの夕食を素早く作りにミントに夕飯をあげると、勢いよく口の中に入れていく。あんなに動き回ったから、きっと私と同じでお腹が空いていたのだろう。相変わらず、食いしん坊だな。
ミントの嬉しそうな顔を横目に私も自分の夕食を作ろうと、冷蔵庫を開ける。
「あ、そうだ! 今、なにもないんだった!」
今冷蔵庫にあるのはマヨネーズやケチャップといった調味料ぐらいしかない。卵などもなく見るからにすっからかんな状態だ。
こうなると、どこかで買ってくるかどこかに行って食べるか。
そんなことを考えていると、ミントがゆっくりと私の元にやって来て、くわえていたものを床においた。
――牧草。
そうか、私がお腹が空いたと言ったから、自分のをどうぞという意味でミントは私にくれようとしているのか。人間の私に気遣ってくれて嬉しい。私の気持ちを読んでくれて嬉しい。
ただ――
「私はそれ、食べられないかな……」
私はあくまで人間。うさぎのエサを食べることはできない。
でも――
「でも、ありがとう」
私はミントに対して優しく微笑む。そんな顔をミントは見つめてくる。
ミントは私が食べないことがあれだったのか、すねたような表情をして戻ってしまった。ただ、またすぐにミントがなにかをくわえてやってくる。今度は紙のようなものをくわえて、またとあるものを床に置いた。
……。
「め、い、し……」
これはラビットランにいたあの男の人の名刺。その名刺には、その人の名前と働いているうさぎカフェの場所が書かれていた。
そうか、ミントは提案しているのだ。ここで食べないかと。
「じゃあ、ミントが食べ終わったらそこに行こうか」
ミントが頷いたように思えた。もちろん、それは私の錯覚に過ぎないだろう。ミントはうさぎなんだから。
私はミントの食べている間、身支度を始めた。少しオシャレな服装でいこう。もしかしたら、うさぎが好きという共通点がある人と特別な関係になれるかもしれない……そんなことを考えると少し微笑んでしまう。
――お腹、空いたな。
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