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「前に、まいさん、僕に教えてって、言ってたでしょ?」
大地がこの家に持ちこんだ、数少ない荷物の中にあったチェス一式。
訊いてみると、小学校の頃からやっていて、そこそこの腕前だという。
「うん。やってみたい。教えて!」
意気込んで言うと、大地はちょっと笑った。私の側にひざまずく。
「いまの、僕のことギュッて抱きしめて、もう一回言って?」
───この、甘ったれがっ。
*****
やってみると、予想以上に難しくて、小一時間でギブアップすることになった。
手にしたナイトの駒を、元の位置に戻す。
「だめ。ここまでが限界。また今度にしよ……? お茶淹れてくる」
「うん。分かった。
棋譜は頭に残してあるから、いつでも続き、できるからね」
チェスを片付けながら、大地がふふっと笑う。
……くそう。バカにしてるな。
二人分のミルクティーを淹れて、大地の元へ持って行く。
「……大地。どこか行きたい所とか、ある?」
「え?」
カップを受け取った大地が、きょとんとした顔を私に向ける。
唐突な質問だったかと反省しながら、ミルクティーをすすった。
「んーと……あんた、あんまり友達と遊んだりしてなさそうだし……。私と出かけるのが、ヤじゃなかったら、だけど」
「嫌なわけないよ! まいさんと一緒なら、僕、どこへだって行きたい!」
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