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その日私は、仕事から帰ってきてシャワーを浴びて。リビングでビール片手に、非常~に良い気分でくつろいでいた。
父さんが、見も知らない少年を連れて、目の前に現れるまでは。
「その……母さんが亡くなって、八年も経つのだから良いだろうだなんて、考えたわけではないんだ。
いろいろ込み入った事情があってだな……。
まぁ、つまり、その……なんだ。
──すまない!
お前に謝ったところで赦されるとは思ってないが──彼と、仲良くして欲しい」
言って父さんは、自分の【浮気の結晶】を紹介した。
「進藤大地っていいます。高校2年、17歳です」
はっきりとした口調で、にっこりと笑った顔は、くったくがない。
……愛人の子なのに。そう思ってしまう私は、根性悪いんだろーか?
「……佐木舞美です。よろしく」
それでも愛想笑いを返せるのは、販売職で培った営業スマイルのおかげかな。
我ながら、腹黒い。
だから、29にもなって、結婚にも彼氏にも、縁がないんだろうか、やっぱり。
付けっ放しのテレビから、民放のニュース番組のキャスターが22時を告げる。
今日も冒頭から『児童虐待』なんて言葉が、耳に飛び込んできた。ヤな世の中。
でも、そんな事件や昼ドラチックな出来事も、テレビの中だけのこととして割り切れば、心を動かされるのは一瞬だ──なのに。
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