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「それでな、舞美。
父さん、明日から一週間、関西支店に出張なんだ。いきなりで悪いが、大地くんの面倒みてもらえるよな?」
「……え? ええっ!? 何ソレッ!? まさか彼、ここに住むってワケじゃ……」
言いかけて、目の端に映った、ボストンバックとデパートの紙袋。二人が持ってきた荷物だけれども。
ひょっとして……これは彼が、我が家に引っ越してくることを表しているのっ!?
「ちょっと待ってよ……。いくらなんでも唐突すぎるでしょ、父さんっ……!」
あまりのことに、何をどこから突っ込んで良いのやら解らない。
父さんは、私をなだめるように両手を上げた。
「お前の言いたいことは解るが、彼にはもう、身寄りがないんだ。頼れるのは、父さんだけなんだよ。
頼む! 半分は血が繋がっているんだ。姉弟仲良くしてくれ……な?」
拝むポーズのまま、チラリとこちらを見た眼鏡の奥の父さんの眼が、情けないくらい必死で。
私は、渋々うなずくより仕方がなかった。
「よろしくお願いします」
だめ押しするかのように、にっこりと、彼はふたたび人懐っこく笑ってみせた。
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