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 その通り。リュセルの着替えた宝鍵の正装衣装は、男神をイメージした宝主の衣装と違い、女神をイメージして作られているので、それはそれは、優美なデザインのものだったのだ。  宝主の衣装のような下衣がなく、長い上衣がそのまま足首まで広がっているので(まさしくワンピースである)、足元がスースーする。 「衣装を取り替えてくれ」  寝室を出ると同時にそう言ったリュセルに、レオンハルトはわずかに眉をひそめて弟を見た。  衣装の裾が足に絡みつくのか、非常に歩きづらそうに歩いている。確かに、袖も長ければ、被っている被衣も長い為、動きづらいだろう。  リュセルが宝鍵の正装を嫌がるのはその為だと勘違いしたレオンハルトは、聞き分けのない幼子を宥めるように答えた。 「これから三日間、その衣装で過ごす事になるのだよ。今からそれでは、この先どうするんだい? いい子だから我慢するんだ」  三日も!?  ガーンっという効果音が聞こえるような衝撃の受け方をしているリュセルは、慌てて目の前の兄に縋った。 「絶対、この格好はお前のが似合うぞ! 俺が着てもおかしいだけだ」  確かに、超絶女顔のレオンハルトが女神をイメージした宝鍵の衣装を着れば、ものすごく、似合い過ぎる程似合うだろうが。だが、別に本人が思っている程、リュセル自身も、この宝鍵の正装が似合っていない訳ではないのだ。いや、逆にかなり様になっている。  いつもは、その凛々しい男性的な美貌から感じるのは、力強さと甘さなのだが、宝鍵の衣装を着た彼からは、その上、艶を感じる事が出来た。  先程、レオンハルトが似合っていると言ったのは、お世辞でもなんでもない。事実なのだ。  レオンハルトは小さくため息をつくと、弟を見下ろして言った。 「似合う似合わないの問題ではない。これは、決まり事なのだよ」  しかし、そんな言い含めるようなレオンハルトの言葉など、リュセルは聞いてはいなかった。 「レオン……、お前、いつもより背が高くないか?」  身長はわずかにしか違わぬ為、いつもほぼ横にあった兄の目線が、気づくとかなり上にあったのだ。  リュセルは、はっとしたようにしゃがみ込むと、レオンハルトの履いている履物を見た。厚底サンダル……。5cmは高さがありそうだ。自分の履いているものが、高さのまったくない、平たいぺったんこなサンダルのせいもあり、身長差が一気に広がったようだった。  感情のまったく読みとれない兄の琥珀の瞳を、呆然と見上げていたリュセルは、眦を上げて抗議する。 「お前、これ以上でかくなって、どうするつもりだ~~~~っ!?」  ただでさえ、一人の男として、レオンハルトよりも僅かに低い背を、何気に気にしていたのに……。充分長身に値する恵まれた体型を保持しているというのに、贅沢な事ではあるが。  リュセルの叫びを聞いたレオンハルトは、もう一度同じ事を言った。 「これは決まり事なのだ、観念しなさい」 「…………」 「さあ、行くよ」  納得がいかず、憮然とした表情のまま黙り込んだ弟に、この事について説得する事はあきらめ、レオンハルトは嫌がるリュセルを連れて、強制的に神殿に向かう為に部屋を出たのだった。 「殿下、遅かったんですね。国王陛下とカイルーズ王子は、もう神殿に向かわれましたよ?」  腕を掴まれて強制的に連れられたリュセルが城の外に出た時、既に馬車の用意は出来ていた。  そのままの勢いで、無理矢理兄の手によって中に押し込められた為、そんな報告をした兄の騎士の一人であるユージンの顔を見る間もなかった。 「どうしたんですか?」 「何かあったのですか? 殿下」  馬車の外で、不思議そうなユージンの声と、心配そうなアイリーンの声が聞こえたが、レオンハルトの「心配いらない」の一言に納得したのか、それ以上二人は何も聞いては来なかった。  主人に絶対服従の、騎士の鏡のような、二人の対応だ。 (くそっ! 少しは疑えよな)  ユージンとアイリーンに内心毒づきながら、馬車に押し込められたリュセルが居住まいを正していると(何せ下衣を履いていない為、上衣の裾がまくれると生足がさらされるのだ)、すぐにレオンハルトが乗り込んで来て神殿に向けて出発した。 「いいかい? 先日説明した通り、式典で我々の出番はない、ただ座っていればいいだけだ。問題は、その後の”祝福の儀”。やり方は、教えた通りにやればいい」
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