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「……? ああ、これか」  レオンハルトが現在身に着けている衣装は、いつも彼が身につけている宮廷衣ではなかった。彼が見にまとっているのは、天上の色とされる白地が光沢を放つ、動きやすさを重視したような衣装だ。  いつも肌をあまりさらす事のない兄が、生腕、片方とはいえ、生肩をさらしているのが印象的で、とても色っぽかった。  さらされた腕、肩には、ジャラジャラと重そうな程、金銀の腕輪が巻きつけられ、首にも、幾重にも同じ色でデザインの違う首飾りが飾られている。腰に緩く巻かれた腰紐は、褐色。その背を覆う胡桃色の髪だけが、いつものように無造作に垂らされていた。ただし、その額には金色のサークレットが飾られ、それが、見る者に神々しさを与えるであろう。  まるで、たくましくも麗しい、古の昔、創世記以前に存在していたという、男神のような、威風堂々とした姿。 (やばい、格好良すぎる)  いつも、どちらかというと、麗しいとか、美しいなど、女性を形容するような言葉が似合っているレオンハルトだったが、衣装の影響もあってか、それに凛々しさが加わり、リュセルは一瞬、見慣れた兄の姿に見蕩れてしまった。 「宝主の正装だ。今日は、夕方まで、王子ではなく、宝主として神殿に籠る事になるからね。さ、お前も着替えなさい。手伝ってあげよう」  着方がややこしい為、おそらく、自分一人では着られないであろう弟を慮って、レオンハルトはそう言うと、リュセルを連れて自室へと戻った。 (俺も、こんな衣装を着るのか)  女顔で(ひどい)、麗しさでいうなら、敵う者など誰もいないレオンハルトがこうなのだ。客観的に見て、男性的な容貌の自分が着たら、かなりはまる事だろう。 (ふっ。似合う事が予測つく、己の美貌が怖い)  寝室の奥にあるドレスルームにて、着ていた衣装を脱ぎながら、リュセルは内心二ヒルな笑みを浮かべた。 「じっとしていなさい」  レオンハルトは、そんな弟の様子に気づいているのかいないのか、用意された衣装をリュセルに着付け始めていた。  アシェイラの紋章の彫られた衣装ケースより出されたものを、リュセルは横目で見る。やはり、白地の衣装らしい。レオンハルトの着るものと同じ、光沢を放つ、美しい白だ。しかし、それを着る前に、まずは、下着をつけなくてはならなかった。下地が表に出ない為に、下着も白なのだ。  そうして、透けないように白い下穿きを身につけた後、全体的にゆったりとしたデザインの衣装を着せ付けられ、(やはり、難しい上にレオンハルトの手が早すぎて覚えられなかった)腰よりも若干高い位置で褐色の腰紐が結ばれる。ただ、レオンハルトのものと違い、リュセルのそれは幅が広く、右脇の下に長く垂らされていた。その上に、肩先まである同じ色の薄いケープを羽織る。  衣服を着付け終えると、今度は、金の箱の中に納められていた、レオンハルト自身も身につけているような、金や銀色に輝く装飾具を取り出した。  宝主として、レオンハルトのつける装飾具の腕輪や首飾りと違い、リュセルに用意されていたものはシンプルなものが多かった。銀の鎖でつながれた鍵を象った飾りを首から提げて、両手首に細い鎖のブレスレットをつけられる。そして、レオンハルトは片膝をつくと、その裸足の右足首に、同じ銀の鎖のアンクレットをつけた。  チャラ  金属のこすれる、わずかな音が響く。 (……? ちょっと、待て?)  そのまま、踵のない、繊細な刺繍が施された褐色のサンダルを履かせられる。そして、最後の仕上げとばかりに、衣装と同じ白色の、薄く大きな布を頭に被せ、金色のサークレットをその上からはめて、膝裏近くまで垂らされた被衣を固定された。 「終わったよ」  レオンハルトの淡々とした終了宣告を聞き、リュセルは恐る恐る移動すると(衣装の裾がフワリと翻る)、姿見で自分の姿を見て愕然とする。 「レ、レオン?」  片付けをしていた兄は、リュセルの呼び声に無言で視線を送ってきた。 「お前の衣装と、デザインがずいぶん違うな」 「お前のは、宝鍵の正装衣装だからね」  レオンはショックで固まっている様子の弟の傍に移動すると、大きな姿見に映った姿を見て、首を傾げた。 「どこもおかしくないぞ? よく似合っている」 「似合う訳ないだろ~がっ! これ、女物の衣装じゃないのか!?」
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