空腹

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 仲良くなった女子大学生と話していたら、 「あなた、授業料払ってもらっているのに一か月一万円もお小遣いもらっているの?」 「それが?」 「金持ちか?」 「別に特に金持ちではないけどね」  彼は少し困ってしまった。 「何だ金持ちじゃないのか? 期待したよ」  何を言っているのだろうか? この人は。シロウには言っていることの意味はわからなかった。 「期待した?」 「お金持ちと仲良くなれるのかと思って」 「金持ちではないけど貧乏でもない」 「貧乏なのか?」 「どちらかというと」 「私も貧乏だよ」 「それよりおなかが空いたな」 「私もおなかが空いた」  二人で声を合わせて言った。 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」  繰り返し言った。 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」  学生食堂目指して声を出しながら歩いた。するとほかの学生たちも声を合わせて言った。 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」  百名以上の学生が歩きながら言っていた。 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」  何度も繰り返して食堂の中でも言っていた。  シロウは夢中になっていたが彼女も笑いながら言った。他二百名以上の学生が言っていた。 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」  食事をはじめてもまだ言っていた。 「もう言わなくてもいいじゃないの」 「言うのだ」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」  いつまでも繰り返した。  食事が終わっても皆で言った。 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」 「おなかが空いた」  いつまでたっても続いていた。シロウはいつまでも叫んでいた。周りの学生たちも参加して叫び続けた。日が暮れてからも言っていた。  いつまでも繰り返し言っていた。  夜が明けても言っていた。学生食堂で朝食までしてもまだ言っていた。いつまでも叫び続けた。  いつまでも言った。叫んでいた。皆何かに夢中になっていた。  そこに獣が表れてシロウは食われるのかと心配したのであった。運命は変えられないのかと心配したのだった。だがそこには大学生は大勢いたので皆でその獣を退治した。運命は変えられるのだ。 「本当だったのか」  裕次郎の一言にシロウは救われたのであった。                     (了)
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