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プロローグ
余分な音もなくキーボードを叩く音のみが響き、部屋の主にとっては集中しやすい、程よく薄暗いパソコンの画面から漏れ出る光のみが照らす書斎。
ただ只管に思い描いたストーリーをキーボードで打ち込む青年は目の下に盛大な隈を飼っていた。
顔色は青く頬も痩せこけ、体も全体的にやせ細り服もくたびれている。
キーボードの音のみが絶え間なく響き渡っていた書斎の中で只管時間は過ぎていき、やがて音が止まる。
出来上がった小説の原稿を編集者に送り、一息つくと緩慢な動きで椅子から立ち上がり、ベッドへと向かう。
身なりを整える元気もなく、そのままベッドに身を投げると瞬く間に意識は闇へと沈んだ。
穏やかな眠りにつくように、しかし青年は静かにその息を引き取った。
眠りについた青年はまるで水の中を揺蕩う感覚に穏やかに身を任せながらも、その違和感に眉を寄せる。
特に煩わしい音もなく、ただ安らぎのみを与えるだけの空間であれど、徐々に体が眠りから覚醒へと向かい始めた。
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