東京駅_2

3/3
前へ
/265ページ
次へ
 真臣は東京オフィスに戻ってすぐ、大きなプロジェクトチームの一員に抜擢されていた。大企業の経営再建に関わる業務で、事業承継対策グループで事務補佐をしている私とはフロアも同じ。だから、彼が今日の夕刻まで取引先に出向いていることも知っているし、きっと電話をしても出ないだろうこともわかる。  武内さんも、連絡したが繋がらず、私のいる部署に掛けてきたのだろう。  ……真臣に直接連絡したいけれど、答えを聞くのが怖い。勇気が出ない。  しばらく悩んでから、私は自分の仕事を片付けて、時間休を申請することにした。  時間休つまり時間単位の有給休暇を、派遣社員の私が申請するなんてやっぱり嫌がられるかなと怯みそうになったが、上司は案外あっさりと許可をくれた。  あと一時間とはいえ、定時前に急にいなくなるのだから迷惑だろうと思ったが、「いつも働き過ぎだから。むしろ遠慮せず、もっと有給とって」と言われてしまった。優しさに甘えるのが申し訳ないと思いつつ、身支度して会社を出てから、意を決して真臣に連絡した。 「武内七瀬という女性のことで聞きたいことがあります。東京駅に来て欲しいです」  メッセージでそう伝えると、仕事中のはずなのに『すぐ行く』との短い返事がきた。帰社途中で神田周辺にいたらしいが、彼の慌てた対応に(ああ、これって修羅場ってやつになるんだろうな……)と、その時点で半ば諦めてしまった。  離れていた三年間、もっと彼の家に行けばよかったのかな。  そもそも彼の両親は、私が両親を亡くして、経済的な援助をしてくれる人が一切いないことに難色を示していた。だから貯蓄を優先して交通費を惜しんでいたのだけど、それも含めて私が悪かったんだと思う……。
/265ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5010人が本棚に入れています
本棚に追加