永久の精霊様

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「馬鹿いってんじゃねぇ、ウチにそんな余裕あるわけねぇべ」  ガツンと頭部にゲンコツが振り下ろされる。  あの後は無事に家まで辿り着いたのだが、その後が大変だった。当初は突然いなくなった僕を心配してくれた家族だったけど、サクラを紹介すると態度は一変したのだ。  妹は歓迎、母さんは困惑、父さんに至っては怒り心頭だった。  飢饉の際にどこの馬の骨とも知れぬ赤の他人を養う余裕等ない、の一点張りだった。それを言われると僕も辛い。当の僕にしたって腹ペコだから山に昇って食料を調達しようとしていたくらいだったのだから。  一部始終を見ていたサクラは背を向けて去ろうとしたが、僕は慌ててそれを押しとどめる。 「と、父さん言ってたじゃないか、恩には恩で返せって。この子は僕も命の恩人なんだから、僕が責任持ってお世話するよ」  僕は必死になって懇願した。 「この馬鹿、好きにしろ!」  痛い所を突かれて父さんは根負けしたのか、奥に引っ込んでしまった。母さんはそんな父さんを追いかけるように妹を連れて行ってしまったが、その間際に僕へ目くばせした。多分良かったね、と言ってくれていたんだと思う。  なにはともあれこうして彼女は僕の家の一員となった。大喜びで彼女の手を取って万歳する。彼女は動揺していたようだが、僕はそんなの無視してしばらくの間二人で万歳を続けたのだった。     それから僕ら一家とサクラとの共同生活が始まったのだが、直ぐに奇怪なことが起こった。  喰いぶちが一人増えて生活が更に貧窮するはずが、逆に余裕が生まれたのである。  山へ狩りに出れば大きな獲物が引っ掛かり、山菜を取りに行けば大量採取、海へ出ればこれまた大漁、挙句の果てにはその年の田んぼや畑の収穫物が近年稀にみる大豊作ときたもんだ。  当初は単なる偶然と皆思っていたが、村そのものが大いに賑わってからは、どうしてこうなったか?という話になった。  そして村民の一人がポツリと「あの子が来てからでねぇか?」と漏らした。  サクラはウチで面倒をみることになった当初から近所では有名となっていた。こんな片田舎には場違いな美少女である。人々の間にその話はすぐ浸透していたのだ。  そうだそうだと村民の賛同の意見が相次ぎ、あれよあれよという間にサクラは幸運の女神として、村中全てに知れ渡っていったのだった。
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