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「サクラ、もう休んでいいよ」
僕は農具を置いて、汗を拭った。やればやるほど成果が出る今となっては仕事にせいもでるものだが、サクラは最近疲れが出ているように見えた。それでもこちらが静止しなければ日がな一日働いてしまっている。
ここに来てから一年が経とうというのに、サクラは言葉数が少ない。余計な事も言わずに黙々と働く姿勢に僕の両親は喜んでいたが、逆に妹と僕は心配していた。
たまに作業を休んで友達と遊ぶ時も、サクラは遠目から僕等を見ているだけで決して混じろうとしなかったのである。何度も誘ったのだが、その度に「私はこうして皆が楽しんでいるのを見ているのが好きだから」と言うばかりなのだ。たまには皆と遊んで欲しいのだが、サクラはどうも本気でそれを楽しんでいるようだった。
「今日はここまでだ、さ、遊びに行こう」
いつものように彼女の手を取って僕等がいつも集まる広場に向かおうとしたその時、けたたましく鳴る蹄の音、怒鳴り散らす様に響く騒音が村に震撼した。
「サクラ、家に戻ろう。領主様御一行だ」
今年も来たか、と僕は思った。
いくら子供と言えども、この騒ぎは良く知っている。大人達が必死の思いで作り上げた作物達を無遠慮に徴収してゆく奴等だ。ここ最近は取り立てが厳しいらしく、近辺の村々の中には土地を手放して逃亡する農民達もいるそうなのである。下手に鉢合わせして難癖でも付けられたら堪らない。僕はサクラの手をやや強引に引っ張った。
僕は全力で走った。田んぼを抜け、畑を駆け抜け、小川を飛び越えて進んだ。後少しで家まで着く、そう油断していた時だった。
「若様、早々に本体へと合流しますぞ」
「分かっておる。このままでは父上に申し訳がたたんからな」
前方より鎧武者の一団が迫ってきていた。
まずい、と僕は思った。このままでは正面から顔合わせすることになる。なんとか横道へと分け入ってやり過ごそうとしたのだが、そこで若様と呼ばれていた武者に声をかけられてしまった。
「そこゆく童共、待て」
ギクリと固まる僕。遅かったようだ。
「我等はこの田舎の道に疎いのだ。近道を案内せよ」
余程急いでいるのか子供ながらに彼等から殺気の様なものを感じたが、僕はそれに妙な反発心を覚えた。
「若様の話を聞いておらんかったのか?案内せよと言っておるのだ!」
あまりな物言いに僕は言い返そうとしたが、その瞬間、ぎゅっと手を強く握られた。
「こちらになります、どうぞ後からいらっしゃってくださいまし」
サクラだ。普段は無口で自分から相手に話かけることなど滅多にないのに。
「む、そうか。では頼んだぞ娘」
若と呼ばれた武者はそう言うと、上機嫌でサクラの真後ろについて馬を走らす。僕も仕方なく彼等の後を追うしかなかった。
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