2night

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3.  食事が運ばれてきて、カラフルなスパニッシュオムレツを頂くことにした。 「澄香、お昼の分も食べなよ」 「あはは」  半分でいいのに、莉奈はもっと食べなと勧めてくれる。 いろいろたくさん食べたい女性のためなのか、一つ一つの量が少なめなのが良かった。 三分の二くらい私が食べてしまったけど、莉奈は構わないらしい。 「これ美味しいね。家で作れるかなぁ…」 「澄香は料理好きだもんねぇ…」 「料理、楽しいよ」  休みの日の前日に、翌日何を作るかを考える。 午前中ゆっくり買い物をして、お昼からのんびり料理をする。 ひとつひとつの工程を丁寧にすると、やっぱり美味しくできる気がする。 「ねぇまた食べに来ない?」 「行く。澄香の作るものみんな好き」 「ふふふ。莉奈の胃袋は掴んだな」  褒められて嬉しくて、ふざけてそう言うと。 「…いつでも嫁にいける腕前なのにね」  いらないブーメランが返ってきた。 「……言うな」 「……ごめん」  おまたせしました、と次の料理が運ばれてきて無言で取り分ける。  ズッキーニボートはもうけっこう一般的だと思うけど、ここのは韓国風でけっこう辛いらしい。 たっぷりのチーズが焦げた、いい香り。 「どう食べる?」 「もう豪快にいく」  言いながら、端にフォークを刺してナイフでかなり大きめの一口分に切り取った。 「え、それ入る?」 「入れる」  驚いている莉奈の目の前で、限界まで口を開けてパクっと。  アッツ……!  はふはふしながら少しずつ咀嚼してるうちに、ズッキーニとチーズ、ツナ、オニオン?と韓国風ソースが混ざって口の中がすごいことになった。 「どう、美味しい…?」  莉奈の質問に、うんうん頷いて応える。  でも、かっら……  辛いのがあまり得意でない私には、かなりハイレベル。 熱さ辛さと戦いながら何とか飲み込んで、さらにサングリア風のノンアルコールカクテルをぐいぐい飲む。 「ふぁ〜〜〜……美味しい!」 「じゃぁ私も……」  同じようにして、でももっと小さく切り取ったのを食べた莉奈が、「あ、これ好きなやつ!」と嬉しそうなので。 「私にはちょっと辛いから、良かったら手伝ってよ」 「えー、いいの?食べる食べる!」 「お皿貸して。これくらいいける?」 「いけるけど、澄香の分があと一口になっちゃうじゃん」 「いいよ。まだヒリヒリしてるから」 「そう?じゃぁ遠慮なく」  そんな調子で、運ばれてくる料理を次々食べた。  お腹がいっぱいになってくると、また話す方に重心が傾く。 「でもさ、青野はいつの間にあの女とできてたわけ?」 「サウスインの新規を彼女に振ったから、そのへんでつながったんじゃないかなぁ…」  私達は食器やカトラリー、キッチン用品などを扱う大手、喜原屋の本社勤務だ。 客先はこれまで飲食店やホテル系列が主だったが、近年個人向けの販売やオンラインショップの取り扱いも始めたため、会社はまだまだ成長過程にある。  営業部の青野は同期のエース。 彼は爽やかさと実力を兼ね備えていて、日々奔走する中で新規顧客の獲得率は高い。加えてフットワークが軽く、丁寧に客先を回ってポイントを稼ぐから、指名率も高い。   「女子社員の大半は気にしてたような感じだし、岩崎さんも好きだったとか?」 「だとしても、青野から全然そんな話なかったじゃん。今までは社外も社内も彼女できたら全部話してたのに…」 「…そうだね」  そう言いながら、莉奈は青野が岩崎さんとの関係を隠していたことに腹を立てているんだと気付いた。  確かに青野はこれまで歴代彼女の存在をオープンにしていたし、何かあれば三人で飲んでその度に話した。  それは、莉奈も私も全く同じで。 この三人に秘密はないと言っても過言じゃないくらい、だったと思う。 「澄香は怒ってないの?」 「……うーん」 「怒ってもいいと思うけど?」 「そうかも、ね…」  怒ってた、ような気もする。 金曜の夜、彼に会うまでは。
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