2night

5/7

536人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
5.  お腹いっぱいになって帰宅した。 メイクを落として歯を磨いている間に、湯船にお湯をはる。  シャワーだけで済ませる日もあるけど、なるべくお湯に浸かるようにしている。  部屋着に着替えてリビングに戻ると、サイドテーブルに置いたスマホのランプが点滅していた。 あれは着信の色。 「…………」  手にとって、見たら。  ……青野、かぁ…  そんな予感はしてた。  会社では莉奈と一緒にかわしたけど、青野はそれくらいで怯むようなやつじゃない。 なんたって営業部のエース、基本的に粘り強いし押しも強い。    一回ちゃんと話さないとだめかな…  考えながら、友達やめたと言ってた莉奈を思い出す。  自分はそこまでではない。 何より怒りはもうないし、この先だって仕事で協力していかなきゃいけない。 莉奈の怒りだって一過性のものだろう。  でも…  今までと全く同じ関係に戻れるのかといったら、そうじゃない。 向こうは結婚するのだ。 同期で仲が良いとはいえ、妊娠中の妻がいる男性を気安く食事や飲みの席に誘うわけにはいかない。 「はぁ……」  友だちをやめるとは言わなくても、自然とそれに近い状態にはなるんだと、今頃になって気づいた。 それをあまりさみしいと思わないのは、今回の告白騒動のせいなのかもしれない。 「んー……」  液晶を見ながら唸っていると、まさにその青野から二度目の着信が入った。 「うわ…」  どうしよ…  一瞬迷って、でも結局応答をタップしてしまう。 「……もしもし」 『有澤?良かった、出てくれて』 「あぁ、うん…何か用?」 『用っていうか…ちょっと話したくて』  …ですよね。 『今、平気?』  その質問に、そっちこそ平気なのか?と思いながらも「うん」と頷く。 「あのさぁ、あの告白のことならもう…」 『俺けっこう前から有澤のこと、好きで』 「……え?」  な、何か変なこと言い出したぞ… 「青野…」 『わかってる。今こんなの言うのずるいんだけど。でも最後だから、聞くだけ聞いてくれない?』 「…………」  その口調があまりにも真剣で、緊張が伝わってくるような沈黙にもほだされた。 「…ん、わかった」 『ありがとう』 「でも…今ほんとに平気なの?その、岩崎さんは近くにはいないの?」  今朝は一緒に出勤したようだったと莉奈が言っていたのを思い出して、つい小声になって訊いてしまう。 『今日はいない。自宅に帰ってる』 「そう…」  少しほっとして、肩の力が抜けた。 話が長くなる気がするので、ソファに座る。 『…そういう心配してくれるのが有澤だよな』 「いや別に、誰だって気になるでしょ…」 『そうか?花はあんまり気にしないタイプだけどな』 「…………」  花、って呼んでるんだ。 ということは、岩崎さんも青野のことを悠聖と呼ぶのかもしれない。 そんなことを考えながら、「それで?」と話を促した。 『それで、つまり…』 「……つまり?」 『…けっこう頑張って、言ったんだよ』 「…………」  それはあの告白のことなのか。 「頑張ってるようには見えなかったけど?」  軽い口調だったと思う。 今思いついたからちょっと口に出してみた、みたいな。 でも。 『いや、そういうふうに装ってただけ。俺めっちゃ緊張してたんだ。それくらい…』  好きだったんだよ、って。 言う青野の声が、震えてる気がするのはきっと気のせいだ。それに。  そんなこと、言われても…  正直、そう思ってしまう。 「青野、やっぱりもう…」 『好きだけど、言っても駄目なのわかってたんだ。だからずっと言わなかった。言って振られたらそれまでの関係も壊れると思って…』 「……うん」 『……黙ってた。でもあの日、有澤が結婚したいなって呟いた瞬間に、それなら俺がって…』 「…………」  言った、確かに。  残業続きで疲れてて、実家からの電話で「お見合いでもしたら」とか言われて、けっこう参ってた。  結婚すれば親からやいやい言われなくなるし。 残業で疲れて帰っても、部屋に戻れば大好きな人がいて癒される。  そういう安易な考えで、結婚したいと口走った覚えはある。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

536人が本棚に入れています
本棚に追加