3night

7/7

539人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
7. 「男?」  何の話? 「岩崎さんの相手ですよ」 「あぁ……えぇ?」  電話の相手、ってこと? 「有澤さん、しっかりしてくださいよ。聞いてます?」 「聞いてるよ…どういうこと?」 「だから、電話の相手っすよ」 「…別にいいんじゃないの?異性の知り合いくらいいるでしょ」  家族かもしれないし、友達かもしれないし。  ていうかどうやって電話の相手の性別を判断したんだ? 「そういうのじゃないんすよ。若い男なんですって」  俺より若いっすよ、って言うから。 「門平くんいくつだっけ?」 「25です」 「…………」  そりゃ若い。 「ちなみに岩崎さんは24っすよ」 「そ、そう…」 「でね?その男、金髪でした」 「はぁ?なんでそんなこと電話でわかるの?」 「だから、来たんすよっ」  来た? 「えっ、来たの!?」 「来たんす。めっちゃチャラい男でした」 「チャラ男…」  いやいや。 でもそれが身内だという可能性もある。  岩崎さんて兄弟いたっけ…? 「あれはそういう意味の男です。営業のエースじゃない男とつながってるんすよ」 「え、いや、待って…」 「間違いないっす」  なぜそんなきっぱり?  その疑問が顔に出たんだろう。 「岩崎さんを抱きしめてたんすよ…」 「!!」  う、嘘でしょ… 「でも押し返されて、引っ叩かれてました」 「えぇ!?」 「しー!有澤さん、声でかいっ」 「ごめん……でも何なのそれ…」 「痴情のもつれってやつでしょ?」 「…………はぁぁぁ…?」  待ってよー、青野は知ってるの…? いや、知るわけない…  だから今日も意気揚々と働いているのだ。  こっそり営業部の方へ顔を向けたら、みんな出払ってガラガラだった。 青野もいない。 「どうするんすか?」 「は?どうって…」 「だって有澤さん、岩崎さんの上司で青野さんの同期っすよね」  それが何よ? 「挟まっちゃったじゃないすか…」 「…………」 「俺、気になって仕事どころじゃないんすけど」 「はぁ?」  そこは仕事しろっての。  夕方のカフェは、思ったよりも空いていた。  アイスカフェラテを飲みながら、窓の外を行き交う人の流れをぼんやり見つめる。  もう来るかな…?  19時には出られると言ってた。 あと10分で時間になる。  どこに行くんだろう…  これってデート、で合ってるのかな…?  そういうのが久しぶりすぎて、何を着たらいいのかわからなかった。 選んだのは結局オフィスワークの定番、ブラウスとパンツ。 仕事からそのままだからと言い訳して、スカートは避けた。 それでも、アイスブルーのブラウスはリボンタイで少しだけ華やかに。 フレアシルエットのベージュパンツは、いつもより高いヒールを合わせて女らしさを強調したつもりだ。 「有澤さん、今日は雰囲気違いますね」  そう言ってくれたのは奥村さんだった。 終業後に予定があるのだと察してくれて、「そのスタイル素敵ですね」と褒めてくれた。  門平くんとはすごい違いだわ…  彼はあのあと、気になる二人が居ないのだから真面目に仕事をしなさいと言われて、ふくれっ面をしてた。  気持ちはわかるけどね…  あんな話を聞いたら、実際に見てしまったら、誰だって気になるだろう。  岩崎さんと会っていた男性が誰でどういう関係なのか。 何か事情がありそうだけど、青野はそれをどこまで知っているのか。  門平くんの言うとおりだよ…もう。  見事に挟まってしまった。  あとで岩崎さんにLINEしてみようかな…体調のことも気になるし。 「ふぅ…」  小さなため息が、カフェラテの水面を揺らす。  個人的な事情には、なるべく首を突っ込みたくない。  どう言ったものかな…  スマホの真っ暗な画面を見つめていたら。  ヴー、ヴー、ヴー… 「!」  着信、鳴海副社長。 慌てて応答をタップした。 「はい、もしもし」 『澄香?』  ゲンキンだけど。  そのひと声で、同期と部下のことは頭から消えた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

539人が本棚に入れています
本棚に追加