1night

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3.  名前も知らない、初対面の人とするセックス。 恥ずかしかった。 でももう会わないのだからと思えば、大胆にもなれる気がした。 「ん……ぅ…、ぁ……、はぁ……」  激しいわけではないのに、余裕を奪うようなキスも。  羽のようにそっと辿る指先が、見つけた先端を捏ねるように動くのも。 「んんん……、ぅん…」  私の舌を捕まえにくる、オジサマの舌。 捕まって、吸われたら、端から唾液が零れた。 「ふぅ、ぅ………あぅ、……ん」 「…気持ちいい?」  その声で、じわっと何かがこみ上げる。  気持ちい…  こくっと頷いたら、オジサマは嬉しそうに笑った。 「まだキスと…、ここ、だけだよ」  ここ、をまた摘んで、絶妙な力で捏ねる。 「ぁんっ…」 「敏感だな……。これ以上強くしたら痛いかな…」 そう言いながら力を込める指先は、より強い快感だけを生み出す。 「あっ……ん、あ、ぁ…」 「………君は、可愛いな」  オジサマの方こそ、素敵だった。 濡れ髪が一筋、顔に落ちて。 整った顔の、目尻の微かな皺がセクシーなんて。 普通じゃない。  そんな人に、何をされてるのかと思えば。 「………っ」  見惚れる顔が降りていって、もう一方の尖りを口に含んだ。 「あん…っ、あぁあー…」  熱い舌に舐られて、敏感になったそこがきゅっと固くなるのがわかる。 もう一方も、オジサマの指で同じようにされてる。  気持ちい…、気持ちい…っ  過去、こんなになったことはなかったと思う。 まだ胸だけなのに、もう下が溢れてるのがわかる。 アルコールのブーストがあるとしても。  私、変…… 「あん、ああ…や、だ、だめ…」 「………だめ?」  頭の中がぐるぐるしてきて、怖くなった。 思わず口走った言葉に、オジサマが顔を上げてこっちを見た。 「気持ちよさそうなのに、だめ?」 「だ、だめです…」  何だか怖かった。  怖いほどの快楽なんて、知らない。 「そうか…じゃぁ、こっちは…?」 「……あ、…っ」  胸の尖りから、下へ。 オジサマの手が降りていく。 バスローブの裾から入り込んで、そこへ… 「あ、こっちは履いてるんだね」 「だ、だって…」  上は付けてこなかった。 でも、下は流石に履いてないと、その気満々の痴女みたいな気がして。 今頃になって、もっと考えれば良かったと後悔しながら。 くすくす笑うオジサマの顔を見ていたら、目が合った。 ドキッと心臓が跳ねる。 「君は本当に、可愛いな」 「…………っ」  そんなこと、目を細めて、そんなに甘い声で言わないで…  甘えたくなるから。  そうしてもいいんだと、錯覚してしまうから。 「さぁ、続けるよ…?」 「あ、…ぁっ」  腰骨の辺りから、ショーツ越しになぞっていった指が、染み出してしまった部分に触れた。  止まる、指。 「………」  無言で視線を向けられて、思わず目を閉じた。  恥ずかしくて、その上から手で覆う。 「………っ」  だめ、なんて。  嘘だって、気付かれたはず。  本当は気持ちよくて仕方ないんだと、知られてしまった。 「………」 「………っ」 「…お嬢さん?」 「えっ…?」  お嬢さん? て、私?  思わず、恥ずかしさを忘れて手を退けた。  いつの間にか、キスできそうな距離まで、オジサマが戻ってきていた。  その、間近で。  微笑む人。 「名前を教えてくれないかな?」 「名前…?」 「うん…下の名前だけでいいから」 「………」  もう会わないのだから。 それはお互い必要ないと。 暗黙の了解なのだと思っていた。  違うの…? 「駄目かな…?」 「……いいえ」  嘘を言っても良かった。 適当でも。 なのに。 「…澄香、です」  嘘偽りなく、伝えてしまった。  澄んだ香りと書く、私の名前。 説明したら、オジサマは「ぴったりだね」と言う。 「綺麗な名前だ」 「…あの、貴方は?」 「…知りたい?」 「………」  頷く。  知りたい、というより。  この声で名前を呼ばれるなら、自分も彼を呼びたかった。  束の間でも、一夜だけだとしても。  名前を呼び合いたい。 「…史朗」 「しろう、さん…」 「歴史の史、朗らか」 「史朗さん…」 「うん…」  淡い灯りの下。 彼の名前を呟いた唇に、また優しい唇が重なる……  
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