5night

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3. 「え、今日も?」 「はい、電話がありましたよ」 「そう…」  岩崎さんのお休みは週明けも続いた。 体調不良なのだとしたら、金曜から四日目になる。  よっぽど具合が悪いのかな…  金曜に連絡しようかと思っていたけど、門平くんから聞いた話のせいで何となくしづらくなり。 そのあと史朗さんと会ったらすっかり忘れてしまった。  私って薄情だわ…  昨日は思い出したものの、休みにわざわざ電話してもと結局連絡せず。  門平くんの話…   金髪の男性と会っていたという話が、どうしても気になる。 男性が岩崎さんを抱きしめようとして、叩かれていたらしい。 そんなのはもう、普通じゃないし。  …でも、それはどう考えてもプライベートだよね…  職場の上司が口を出すことじゃない。  お休みは、妊娠初期の体調不良なのかもしれないし…  でも、青野のことも気になる。 岩崎さんとその金髪男性のことを知っているのか、いないのか。 「はぁ……」  どうしたものか。 デスクの端に置かれた電話を見ていると。 「はよっすー、有澤さんと奥村さん」 「あ、おはよう」  門平くんが出勤してきた。 彼はいつものようにノーネクタイの軽装で、たぶんお菓子が詰まった大きなバックパックを背負っている。 あの中には、彼のチャージ用のお菓子が1週間分入っているのだ。 企画部は時々顧客から呼び出されることがあるので、あまりにもカジュアルな服装はまずいのだけど、彼はそんな時に備えてロッカーにスーツ一式常備している。 「今日も新作盛り沢山っす」 「………」  ほくほくしている門平くんを横目に、奥村さんに確認する。 「岩崎さんのお休みの理由は聞いた?」 「体調不良とだけ。妊娠初期ってそういうのあるんじゃないんですかね」 「そうだね…」 「あ、また休みなんすね」 「うん、今日の分の岩崎さんの仕事確認しないと」  そういった途端、門平くんの表情が歪む。 何か文句を言いそうなので、先回りして「私がやるから」と言った。 「もしかしたら手伝ってもらうかもしれないけど、とりあえず任せて。二人は自分の案件進めてくれる?」 「わかりました」 「……了解っす」 「うん、よろしく」  とりあえずこれでいい…  自分の仕事にはいくらか余裕があるし、月曜の朝から愚痴や小言のやり取りはしたくない。 その雰囲気が金曜まで続いたりしたら最悪だ。  それに、今の私は… 「有澤さん」 「え?」 「何か今日、いつもと違いません?」 「……そう?」  奥村さんは、こういうのにけっこう鋭い。 「キラキラしてるっていうか…」 「…………」 「つやつやしてるっていうか…」 「…………」  ……そんなに?  普通にしてるつもりだけど、出ちゃってるんだろうか。 浮かれっぱなしのこのテンションが。 「えー、なんすか。有澤さんいいことあったんすか?ずりー」 「いや、別に……」  てか、ずりーって何よ?  門平くんの視線まで向けられてしまい、ちょっと恥ずかしくなってくる。 「うーん…言われてみると、何か化粧がいつもと違いません?」 「同じだよ」  そんな、心の中を見た目にがっつり盛り込むほど若くはない。 「でも化粧ノリがいいですよね」  うぐ。 やっぱり奥村さん、鋭い…… 「金曜日もそれっぽい服でしたしー……」 「…………」  あぁ、もうやめて……  こういうのは苦手だ。 「……男、ですね」 「おお~」  よかったっすね、と門平くんが拍手した。 「ちょっとやめて、そんなの」 「いいじゃないすか。有澤さん、もうけっこうフリーでしたもんね」 「…それ、君に関係ないでしょ」 「関係ないですけど、せっかく美人なのにもったいないっていうか」  もったいながられても、嬉しくないんだよ… 「とにかく、もう始業時間です」 「あー、逃げたー」 「逃げたじゃないの、もう仕事始めるよ」 「あとで聞かせてもらえます?」 「………」  奥村さんまで…  相手が取引先の副社長なんて、社内の人間に言えるわけがない。 「だめ。はい、仕事する!」 「えー、つまんね…」 「聞きたいなぁ…」  なんでそんなに人の恋愛事が気になるんだか。  あ、でも。 莉奈には隠しておきたくないなぁ…  入社以来の友情だけど、この間お互いの恋愛話は全て隠さず打ち明けてきた。  莉奈は総務部だから、直接史朗さんの顔を知っているわけでもないし……、…よし。    ノートパソコンを開きながら、今週どこかで食事に行けないか訊いてみようと決めた。
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