5night

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10. 「ですので、こちらの商品の方が長く使えるのではないかと…」 「なるほど。確かにこの強度で軽いのは理に適ってる」 「ただ、色味の選択肢が少なくなってしまうのですが」 「あぁ、その点が残念だね。向こうのシェフの意見の中には、豊富なカラーが魅力的だとある」  午後からの打ち合わせは、前回と同じくGOの仮オフィスで始まった。 前回渡したリストの中から、先方からピックアップされたものについて詳しく説明し、さらにこちらからの提案も重ねていく。 詳細まできっちり頭に詰め込んできたので、質問には戸惑うことなく答えられた。 ただ… 「そうなると納期は半年以内では厳しいのかな?」 「……………」 「……青野さん?」 「……………」  青野が全く使い物にならなくなっている… 「青野さん!」  隣で強めに呼ぶと、ハッとしてようやくタブレットから顔を上げた。 「…あ、すみません!」 「いえ、いいんですが……大丈夫ですか?」  体調が悪いのでは?なんて。 副社長に心配される始末だ。 昼休みの出来事をこっそり覗いてしまった私は、どうして青野がこんな状態なのか知っている。  だから気持ちはわかるけど……  今はまずい。  青野本人もそれはよくわかっていて、さっと座り直して姿勢を正した。 「大丈夫です、大変失礼いたしました。それで…?」  視線がこっちに泳いでくるあたり、やっぱり聞いてなかったようで。 「納期についてお尋ねです。このシリーズはどれくらいかかるかと」 「あぁ、それですね。こちらは絵付に時間がかかるので…」  こんな調子で、エンジンがかかればきちんと動き出すのだけど。 「それではコスト面はどうですか?」 「…コストは………あれ?データが…」  飛んでると呟いたのを聞き取ったところで、思い切って自分のタブレットを手に取った。 「鳴海副社長、先にティータイム用の食器の説明をしてもよろしいでしょうか?」 「あぁ、…そうですね。お願いしようかな」 「恐れ入ります。…ではこちらをご覧いただけますか?」  営業がこの体たらくなんてあり得ない。 でも今の青野に普段通りの完璧な仕事は無理だとわかってる。 順番通りにはできなくても滞るよりはましと、必死で場をつないだ。 「自然を連想させる物が良いとのことでしたので、こちらとしましては……」  絵柄よりも色合いにこだわったシリーズの提案をする私の横で、青野も察して飛ばしたデータを探し始めた。  この日の打ち合わせは終始そんな調子で、いつもは隙のない青野の穴だらけの仕事をひたすらフォローする羽目になった。 「ごめん」  車に乗るなり謝られた。 「ほんとに、ごめん……」 「…いいよ。何とかなったし」  私相手に深々と頭を下げた青野のつむじを見る。 「……………」 「……帰ろうよ」 「ん……」  そう言うくせに、起き上がろうともしない。 「有澤……」 「うん…」 「…………」 「…………」 「ごめん…」 「……大丈夫だよ」  ようやく顔を上げた青野は、変な顔をしてた。 泣きそうなのをこらえてるみたいな。 いつもの自信ありげな笑顔はどこにもない。  今日、なんて言われたの……?  って、訊いたほうがいいんだろうか。 誰かに話して、気持ちが楽になることがあるのは知ってる。  でもそれは、話したいときに話すべきだよね…  無理に聞き出すのは違うし、きっと今はまだ青野の頭の中も混乱してるだろうし。 「帰ろう、青野。疲れてるみたいだから、今日は私がフラペチーノ奢ってあげるよ」 「…………」  甘いものが嫌いじゃない青野にそう言ったら、彼も何か言いたそうにした。 でも結局それを飲み込んで。 「…ゴチになります」  そう言って、少しだけ笑った。 
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