5night

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11.  帰宅して、夕ごはん。 今日は何だか疲れが酷くて作る気になれず、帰り道のコンビニでテイクアウトした。 小さめサイズのお弁当と、罪悪感を紛らわすためのサラダ。 「たまにはね〜…」  とか言いながら、最近はお昼のお弁当作りもサボりっぱなしだ。    仕事が充実していて忙しいから…  そんな言い訳が頭を過るけど。 自炊の方が栄養も偏らないし、節約にもなるのはわかってる。 それに一度ついたサボり癖は厄介で、一念発起しないとなかなか抜け出せなかったりするのだ。  早いとこペース戻さないとな…  そんなことを考えながら、お弁当を半分くらい食べた頃。 サラダの容器の横で、スマホが着信を告げた。 「あ……」  彼からだった。 急いで箸を置き、グラスの麦茶を飲み干してから応答する。 「もしもしっ」  勢い込んで言ったら、向こうからはくすくす笑う音がした。 『澄香?』 「はいっ」 『…元気だなぁ』 「あ…、……ハイ」  声が大きすぎたかも… 『急にごめん。食事中だったかな』 「いえ、あ、はい…」 『ん?』 「あの、そうなんです…食べてました…」 『やっぱり。タイミングが悪かったね』  ごめんと繰り返す史朗さんに、慌てて声を掛ける。 「いいんです!こっちの方が大事です」 『……ありがとう』 「どういたしまして……」  え、これ合ってる……?  私は彼が相手となると、いつもこんな調子で何ひとつ上手く話せなくなる。 自分が何を言っているのか、冷静に考えられないというか。  仕事の時は大丈夫だったのに…… 「あの、何かご用でした?」  あぁ、この言い方可愛くない気がするー…  ひとり悶えていると。 『うん…』 「……?」 『澄香、今日の夕食はどんな?』 「え?」  まさかの夕ごはんについての質問がきた。 「どんなって……」 『うん。何を食べてるのかと思って』 「…………」  お弁当の蓋をそっとひっくり返すと、パッケージには「ミニ三色丼」の文字。 「ミ……」 『ミ?』  何で今日これ買ったの、私…… 「今日はコンビニのお弁当です…」  負けた気分で答えたら。 『あぁ、そうなんだ』  オジサマ史朗さんは笑ったりしなかった。 それどころか。 『俺と同じだね』  少し嬉しそうにそう続けた。 「え、史朗さんもですか…?」 『うん。最近はこればっかりだよ』 「……ほんとうに?」  あんなに素敵で美味しいお店を知ってるのに? 『本当だよ。澄香と行ったようなお店はひとりでは行かないしね』 「そうなんですか…」 『今いるホテルのレストランのメニューも制覇してしまったし、近くの飲食店もけっこう行ったし…』  残るはコンビニ? 「コンビニ、手軽でいいですよね……?」  疑い半分で言ってみたら、史朗さんは「そうだね」と言った。 『迷ったらコンビニに行けば、その時食べたいと思うものが何かしらあるから。便利だよ』 「わかります……」  でも。 「毎日だと栄養が偏りませんか?」 『あぁ、それは気になるところだけど…』  彼は自炊の習慣はないと言っていた。 簡単なものなら作るらしいけど、きっと忙しくて無理なんだろう。  これはもしや、チャンス…? 「あの…もしよかったら、なんですけど」 『うん?』  週末、ご飯を食べに来ませんか?  精一杯、さり気なさを装ったそのお誘いに。 史朗さんは「え、いいの?」と驚いたように返した。 『澄香が手料理をご馳走してくれるということ?』 「う、あの、手料理ではありますが、そんなに上手というわけでもないのですが」  莉奈は褒めてくれるけど、特別美味しいとかではない。 史朗さんの口に合うかどうかも定かではない。 言ってすぐに後悔し始めたところに。 『嬉しいな…誰かの手料理は久しぶりだ』  そんな言葉が返ってきた。 『でも、いいのかな。お邪魔してしまって?』 「あ、私は大丈夫です…」 『……じゃぁお言葉に甘えようかな』 「はい。……お待ちしてます」  先週末、次の約束は特にしていなかったから。 史朗さんとの約束ができたのは嬉しかった。 『澄香』 「はい」 『……その時少し、話したいことがあるんだ』 「………?はい…」  気になる言い方、ではあった。 でもその時の私はもう、史朗さんに振る舞う料理のことで頭が半分以上埋まっていた。 それに。 『あと…昨夜のメッセージ、ありがとう』  嬉しかった、と言われて、大好きですと送ったのを思い出した。 「あ…………、ハイ」  顔が熱くなるのを感じながら、彼の声に耳を澄ませた。
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