1night

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5.  史朗さんの、が。 動くたび。 甘い喜びが容赦なく襲いかかってくる。 「んあっ………あ、ああぁっ……」  そんなに激しくされてないのに。  どうして、こんなに……  目の前がチカチカするほどの快楽なんて、初めて知った。 深酒のせいなのか、体の相性なのか。 でもそんなの。  もうどうでもいい…っ  彼とつながったところが気持ち良すぎて、頭がおかしくなりそうだった。 「澄香、かわいい…」  見下ろされて。 そんなことを言われて。 押さえつけられた両手で、シーツを握りしめる。 「澄香…」  優しい声の彼、でも情欲を湛えた獣のような目をしてる。 「んっ……、んっあ、……っ」  浅いところを擦られても、声が出てしまう。 息も上がってしまって、何も我慢できない。 恥ずかしくて。 「……ゃ、やだ…」  そう言っても。 「…嘘。気持ちいいでしょう?」  史朗さんは微笑んでて。 まだ余裕そう、だった。 「澄香、嘘はだめだよ」  さっきまで知らない人だった。 なのに今は、まるで恋人みたいな声で名前を呼ぶ。  私も… 「し、ろう…さん」 「………ん」 「……ぁ…あ…、きもちぃ…」 「………」  低く笑う、口元を見つめながら。 「………ふ、ぅ…」  何か言いそうになるけど、耐える。  ちがう、これは…  その場の情に流されそうになっていて、うっかりするとおかしなことを口走りそうだった。  この人が、こんなに気持ちよくするから…  そう思ったら、余裕そうな顔が少し憎らしいような気がしてきて。 「………っ」 「……ぅ、………澄香…?」 「史朗さんだけ…、余裕なの、ずるいです…」 「………余裕…?」  まだ何か言いそうに見えたけど。 「キスしたい…です」  そう、強請ったら。 優しく微笑んでくれた。 「いいよ」 「腕……抱きつきたい、の」 「……いいよ」  解かれた両腕を、彼の首に回す。 引き寄せるみたいにしても、彼は抵抗しなかった。  軽く触れるだけのキス。 からの、深く濃厚なものへと変わって。 お互いの口の中で、奪い合うみたいに舌で追いかけっこする。  捕まえた…っ  と、思ったら。 ぐん、と中を押されて、反射的に仰け反った。 「…っ、ず、るぃ……」  5センチ先の両目が、笑ってる。 「可愛いよ、澄香…」 「あ……あぁ…」  ぐいぐい押されて、やらしい音をたてながら擦られて。  またキスが降ってきても、応える余裕はなかった。  しがみついて、爪を立てる。 「やぁぁんっ……、あっ、しろうさ……あっ、あっ……」 「澄香…」  ぶつかるみたいに。  抉るみたいに。 「気持ち、い……あぅ、んん、あっ……あ、もう……」 「…ん、いいよ…」 「ぅあ、んっ……ぁ、あっ……」 「……くっ」  彼は私がいく寸前に、ぎゅうっと抱きしめてくれた。 熱くて硬い身体に密着して。 がくがくと震えながら。 目尻から零れる涙には、気付かないふりをした。   「大丈夫?」 「…ん、はい…」  コトのあと、くたくたになってしまった私は、史朗さんにシャワーを譲って、広いベッドでうとうとしていた。  爽やかな香りと共に戻ってきた彼は、バスローブ姿で髪を拭いている。 「起きられそう?」 「はい…、大丈夫、です」  時間が経つと恥ずかしくなってしまうのは、お酒もほとんど抜けたから。 それから…  この人、ほんとに格好いい…  一見しただけで、すごくレベルの高い人だったのだとわかったから。  普通に考えて自分に釣り合うとは到底思えないし、何ていうのか物腰が……優雅だ。  そんな人と自分がさっきまで何をしていたのか、鮮明に思い出して顔がかっとなる。 「水、飲む?」 「あ……ありがとうございます」  差し出されたミネラルウォーターのボトルに、おずおずと手を出したら、彼はふっと笑った。 「…我に返った?」 「………はい」  元々、酔っても記憶を無くすようなタイプじゃない。 いつもはちゃんと、自制心が働いてた。 「あの…」  何を言うべきなのか、まだぐるぐる考えているうちに声を掛けてしまう。 「あの…」 「……ん?」  お礼?は、変かな…  そう思ったけど。 結局、口から出たのは。 「あの、ありがとうございました…」  ……だった。
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