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7night
1.
「新見准です。第3からきました。よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げた男の子。
……うん、どう見ても「男の子」。
ぱっと顔を上げたら、バシバシまつ毛のお人形みたいな顔にまた目が吸い寄せられてしまう。
「門平っす…よろしくお願いしまーす……」
門平くんも、明らかに予想外っていう反応。
「どうも」
奥村さんはそんな感じで、普段を知る身としてはかなり素っ気無い。
それにしても。
邪悪って言ってたけど………どこが?
きれいで、可愛らしくて、おまけに小柄。
何ていうかもう、外国の絵画の天使みたいだ。
「アラミンて呼んでください!」
「ア、アラミン…」
「はい!」
完全に飲まれてる門平くん。
の隣で音を立てて息を吐いた奥村さん。
「それじゃ仕事しましょう。今日は岩崎さんいないし、新見くんにつくのは私でいいですか?」
有澤さん、と言われるまで、天使そのものみたいな明るい茶色のくるくるパーマヘアに見惚れていた。
「う、うん。お願いします」
「はい」
厳しい表情のまま、奥村さんが新見くんを見る。
「新見くん。あなたの席はここです」
「はい」
「座って。明日以降前任が来ればそこで引き継ぎ、来なければチームの誰かが一緒に作業しますけど、基本的に忙しいのでさっさと覚えてください」
「はい」
とても良い返事をしながら背筋まっすぐで座っている姿からは、やっぱり邪悪な要素は感じない。
むしろ奥村さんの方が、いつもの穏やかさどこいった?状態……
それでもひとまず彼のことは奥村さんに任せて、自分の仕事を進めることにした。
「ほら、門平くんも。仕事始めて」
「…っす」
少し淋しそうな顔。
男同士で、仲間ができると思ってたんだろうな…
ところが来たのは、男と呼ぶには抵抗があるほど可愛らしい容姿の「男の子」。
こんな言い方したらだめだけど。
私より女子力高そうな見た目だもんねぇ……
そのつるつるすべすべお肌から目を引き剥がしながら、自分の席につく。
パソコンの電源を入れると同時に電話が鳴ったと思ったら、誰よりも早く手を出したのは新見くんだった。
「はい。喜原屋本社第1企画部、新見が承ります」
「「「………………」」」
完璧やないかい……
「……はい。……はい。お待ち下さい」
思わず脳内で突っ込んでしまうほど、慣れた調子で電話を取り次ぐ新見くん。
「有澤さん、マキセからお電話です」
「あ、ありがとう」
マキセは種子島にある窯元で、入社直後に自身で発掘してからの長い付き合い先だ。
カラープレートの件だ…!
受話器を取り上げながら、瞬時に頭を切り替えた。
カフェテリアでの、莉奈とのランチ中。
「一緒していい?」
やってきたのは、青野。
「……いいよー」
「今日は顔色いいじゃん」
二人口々に答えると、青野はトレーを置きながら苦笑いした。
「まぁね…」
昨日はけっこう寝たから、と言う。
「……………」
「……………」
莉奈と目配せ。
……これって突っ込んで訊いていいところ?
……どうかな……
どういうテンションで接するべきか決めかねていると。
「なぁ、有澤のそれって新メニュー?」
青野がいつもの調子で訊いてきた。
「あ、うん…」
もう九月がすぐそこだからなのか、カフェテリアのメニューが秋っぽくなっていて。
今日の日替わりランチは、さつまいもご飯とチキンソテーきのこソース、和物と茄子のお味噌汁。
「美味しいよ」
「俺もそっちにすればよかったな」
そう言う青野は、よく食べてる焼き魚定食。
「小島は?」
「今日はパスタ」
「……何で人が食べてるのって美味そうに見えるんだろうな?」
座って味噌汁椀と箸を手に取りながら、首を傾げている。
「……………」
「……………」
再び、目配せ。
……訊いてもよさそうじゃない?
……うん、いい気がする。
……じゃぁ、訊く…?
……うん…
箸とお茶碗を置いて、何となく背中を伸ばす。
「…あのさぁ、青野」
「ん?」
「えーと……」
あれ、何を訊くんだっけ……?
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