1night

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1.  女に生まれて、30年。 成長とともに、それなりに経験を重ねてきた。  異性との付き合いだって。 高校2年の時の初彼氏、3年になって初体験。 大学時代も数人と付き合ったし、中には1年以上の長いお付き合いだってあった。  でもそのどれもが、生涯を捧げる相手にはなり得なくて。  お別れした。  私は今もひとり。  いつまでひとりのままなんだろう……と考えることもある。  友達や同僚の結婚に焦る気持ちも、ある。  このままずっとひとりなんだろうかと考えて、その恐怖から目を逸らすためにお酒の力を借りることも。  でもそんな時だって、これ以上はだめだって。 飲みすぎないよう、自制することもできる。  だってもういい大人だし。 明日はまた、仕事だから。 仕事して、お給料をもらって、ひとりでも生きてかなきゃだから。  わかってる。  わかってる、のに… 「何でよ…」  どうして私には、誰もいないんだろう?  何でこんなに淋しいの?  友だちは、いる。  両親も兄弟もいる。  結婚しようねって言ってた恋人だって、いたこともある。  でもいつも、待っているのは別れのゴールだ。 別に、結婚じゃなくてもいい。 ただ隣に誰かがいて、疲れた時に甘えさせてくれて、抱きしめてくれる。 その逆だって、していいならしてあげたい。 ずっと一緒にいたいと、思える人がほしい。  それだけなのに。 「いつもうまくいかない…」  今日、会社の飲み会の席で。 「私達、結婚します」  って、いきなり報告してきた部下。  隣にいたのは、先週私に告白してくれた同期だった。 「一緒にいて楽しいし、俺達付き合わない?」  って、言ったのは何だったのか。  呆気にとられていたら。 「実は妊娠してるんです。なので休暇の申請もいずれお願いしたいんです」  ですって。    え、何これ。  嘘でしょ。  返事を少し待ってほしいって、言ったから?  いやいや、一週間じゃ妊娠は無理でしょう。  と言うことは、この男はそんなコトしてて私に付き合おうって言ったの?  私はそんな男と付き合うかどうか、一週間も真剣に考えてたの?  もう、一周回ってしまって。 「わかりました。その折にはまた相談して下さい。おめでとう」  とか言ってしまった。  さらに、体を大事にしてね、なんて。  気遣う程度には、その部下のことを大事に思っていた。  隣で当たり前みたいに微笑んでた同期は、それを聞きながら何を考えていたんだろう? 「はぁ…もうどうでもいいや…」  とにかく。  もう疲れてしまった。 「心も体も…ボロボロだぁ…」  心はもう、痛いのかどうかもわからないし。  体は、ここぞとばかりに飲みまくったアルコールでフラッフラ。  いつもは働く自制心は、今日はネジごと引きちぎれて飛んでって、跡形もなくて。  だから、飲めるとこまで飲んだのだ。  支払いはカードでしたから、どれくらい飲んだのかは知らない。 「来月明細がきたらワカル…それまで、生きてればね〜…」  ふらふら、ふわふわ、歩きながら。 ここはどこなんだろうと思った。 知ってるような、知らないような。 見覚えがあるような、ないような。 「あ~ぁ…」  不思議と気分は悪くなくて。  酔のせいなのか、淋しさも薄くなってきた気がする。  このまま倒れたら、気持ちよく眠れるんじゃないかと思う。 「頭打って…、死ぬとか、あり…?」  それもいいんじゃないの? このつまらない、淋しいだけの人生を終わらせるのも。 ありなんじゃない?  足元のアスファルトを見ながら考えてたら。  後ろから笑い声がした。 「それくらいじゃ、死ねないよ」  振り返ったら、おじさんが立ってた。 「頭を打って死ぬなら、もっと高いところじゃないと」  ですって。 「…確かに」  仰る通り。 「君、何か嫌なことがあったの?」 「………」  あったけど。  でもそれをこのおじさんに説明しても… 「話してみない?」  それにしても格好良いおじさんだ。  イケオジ、だ。 「俺で良ければ」  このままついて行ったら話だけじゃすまないって。  わかってた。  でも。 「話します」  何でもいいから縋りたい気分、だった。  誰でもいいから、抱きしめてほしかった。
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