伊藤画伯のファーストアプローチ

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と笑顔で挨拶する。 老人はにこりと笑うと 「私は絵描きを生業としていてね、いきなりで悪いんだがモデルとか興味ないかね?」 と切り出した。 「ええ?あの、」 困惑して返事を言い淀む彼女に 「先生は日本画の大家でして、次の画の題材にモデルを探してる次第です。」 男は自分の名刺を差し出した。 『武内 翔村 秘書 伊藤 千遥(ちはる)』 「返事は急ぎませんので、お考えいただけますか?」 伊藤はそう言うと彼女に薄く微笑んだ。 その表情に彼女はドキリとし、見惚れる。 「あと、お会計をお願いします。」 「あ、はい。こちらにどうぞ。」 決済するためにうつ向く伊藤の横顔を盗み見る。 レシートをプリントアウトすると 「こちらレシートのお返しです。」 と渡した。 「ありがとう。」 伊藤は受け取ると無造作にジャケットのポケットにしまう。 彼は武内老人の車イスの駐車ブレーキを解除すると引いた。
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