最終話 彼の秘密

3/3
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「……お母さんも力持ってるよね? ……近くに、自分の心読んでくる人がいるのはどんな気持ちだった? 長谷川くんは、私よりもっと大変だったよね?」 「別に、うちは。互いに腹の中は分かってるから、バカみたいな嘘は止めると決まってるだけだし」  長谷川くんはそう言うけど、実際には言い尽くせない苦悩があったと思う。  過去に、「もしかして自分以外にも心を読む能力者が存在したら」と思考を抑えた頃もあったけど、そうすると余計に心が荒んでいった。  やっぱり人間は、考えるのを放棄すると生きていけないんだなって。  でも彼から聞こえる思考念は僅かだった。  いつも、いつも。その心を無にするように、努めていたのだろう。 「俺、転校するわ。お袋に話せば分かってくれるから」 「え? どうしてそんな話になるの?」 「だって。そりゃ。……俺に心聞かれるとか気持ち悪いだろ? 」  だから、力を隠してくれていたんだ?  やだよ。せっかく仲間を見つけたのに。 「ねえ、私達の間では思ったことは全て口に出すと決めない? それなら、普通の人間関係築けるよ」 「全て!」 「どうせ、全て聞こえているのだから」  私のお守りは小さな小瓶から、大きなあなたに変わっていたと気付いたの。  だからお願い。行かないで。 「……まあ、嘘はないからな。お前がそれで良いなら」 「ありがとう」  あっさり聞き入れてくれたのは、私の心を読んでいてくれるからだろう。  ありがとう。わがまま聞いてくれて。 「家に遊びに行かせて。お母さんと話がしたいの」 「お袋とー! ま、まあ、女同士勝手にしろよ!」 「長谷川くんも一緒に」 「はあー!」 [また、彼女と言われるだろーが!]  あ。それが嫌なんだ。  彼の珍しい思考念に、私は思わず。 「……長谷川くんって結構可愛いところあるよね?」 「ふざけるな!」 「ごめーん。心で思ったから、口に出しちゃった」 「勝手に言ってろ!」  初めは怖かった尖った声も、全然怖くない。  本当は優しいの、知っているから。  すると不意に聞こえてくる、その心。それは。 「……え?」  途端に私の顔は熱くなってしまう。 「今のは違うから! あー! 調子狂うなー!」  そう叫び髪をぐしゃぐしゃにする仕草に、私はまた見入ってしまい、ふっと考えてしまう。 「あ、今のは違うからー!」  次は私が否定し、見合わせた顔を互いに逸らしてしまう。  思ったことを言葉に出すのは、難しいみたい。 「まあ、少しずつだな」 「……うん」  今日は、二人並んで帰る。  私達は秘密を共有する者同士。  それだけで、何だか嬉しかった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!