10人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「……お母さんも力持ってるよね? ……近くに、自分の心読んでくる人がいるのはどんな気持ちだった? 長谷川くんは、私よりもっと大変だったよね?」
「別に、うちは。互いに腹の中は分かってるから、バカみたいな嘘は止めると決まってるだけだし」
長谷川くんはそう言うけど、実際には言い尽くせない苦悩があったと思う。
過去に、「もしかして自分以外にも心を読む能力者が存在したら」と思考を抑えた頃もあったけど、そうすると余計に心が荒んでいった。
やっぱり人間は、考えるのを放棄すると生きていけないんだなって。
でも彼から聞こえる思考念は僅かだった。
いつも、いつも。その心を無にするように、努めていたのだろう。
「俺、転校するわ。お袋に話せば分かってくれるから」
「え? どうしてそんな話になるの?」
「だって。そりゃ。……俺に心聞かれるとか気持ち悪いだろ? 」
だから、力を隠してくれていたんだ?
やだよ。せっかく仲間を見つけたのに。
「ねえ、私達の間では思ったことは全て口に出すと決めない? それなら、普通の人間関係築けるよ」
「全て!」
「どうせ、全て聞こえているのだから」
私のお守りは小さな小瓶から、大きなあなたに変わっていたと気付いたの。
だからお願い。行かないで。
「……まあ、嘘はないからな。お前がそれで良いなら」
「ありがとう」
あっさり聞き入れてくれたのは、私の心を読んでいてくれるからだろう。
ありがとう。わがまま聞いてくれて。
「家に遊びに行かせて。お母さんと話がしたいの」
「お袋とー! ま、まあ、女同士勝手にしろよ!」
「長谷川くんも一緒に」
「はあー!」
[また、彼女と言われるだろーが!]
あ。それが嫌なんだ。
彼の珍しい思考念に、私は思わず。
「……長谷川くんって結構可愛いところあるよね?」
「ふざけるな!」
「ごめーん。心で思ったから、口に出しちゃった」
「勝手に言ってろ!」
初めは怖かった尖った声も、全然怖くない。
本当は優しいの、知っているから。
すると不意に聞こえてくる、その心。それは。
「……え?」
途端に私の顔は熱くなってしまう。
「今のは違うから! あー! 調子狂うなー!」
そう叫び髪をぐしゃぐしゃにする仕草に、私はまた見入ってしまい、ふっと考えてしまう。
「あ、今のは違うからー!」
次は私が否定し、見合わせた顔を互いに逸らしてしまう。
思ったことを言葉に出すのは、難しいみたい。
「まあ、少しずつだな」
「……うん」
今日は、二人並んで帰る。
私達は秘密を共有する者同士。
それだけで、何だか嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!