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1話 私の秘密を知った彼
「もー、真子は優しすぎー」
[ウゼー、また良い子ちゃんアピールかよ]
「本当に、私がやっても良かったんだよー?」
[こいつチョロいなー。マジで]
「大丈夫だから」
私は友達の南ちゃんと絵美ちゃんの話に軽く返事し、努めて口角を上げる。
「声」には返事するけど、「その声」には反応してはいけない。
長年経験しているけど、心に蓋をするのはやっぱり難しいことだと思う。
黒板に目をやれば、クラス委員の名前には「佐伯」と書かれていて、本当は溜息を漏らしたいのに、そんなことは出来ない。
これ以上、嫌われたくないから。
私は、佐伯真子。高校二年生の十七歳。
どこにでもいる普通の女の子と言いたいけど、そうではない。
生まれた頃から人とは違う力を持っていて、それは。
[はぁ、マジでこいつに押し付けられて良かったー]
また聞こえてくる、「その声」。
反応したらだめ。笑わないと。
しかし気持ちとは裏腹に私の眉はピクピクと動き、口角まで下がってきた。
その時。
「うるせーな! 寝れないだろ!」
机に突っ伏していた男子、長谷川くんが私たちを睨み付けて、不機嫌な声を露わにしてくる。
茶髪にピアス、着崩した学生服。顰めた眉に、つり目で強い目力。
視線が合った瞬間に、私の心臓がキュッと縮こまった。
「あ、ごめんなさ……」
反射的にその言葉を口に出そうとすると、それに被せるように、尖らせた声が響く。
「お前じゃねーよ、おい二人! 悪いと思うならお前らがやればいーだろ!」
長谷川くんは、南ちゃんと絵美ちゃんだけに顔を向けて意見をぶつけ、私には明らかに関心がないような態度を取ってきた。
「それは……」
その言葉に黙り込んでしまう二人。
しかし「その声」は聞こえてくる。
[どうしてこんな奴の為に代わらないといけないの?]
そんな本心が。
「できねーなら、言うな! 気分悪い!」
そう言い、また机に突っ伏してしまう長谷川くんは、入学当初からそんな調子。
その姿に休み時間の教室中はザワザワとし。
「怖い」、「苛つく」、「関わらないでおこう」と、長谷川くんに明らかに聞こえる声で話していて、私の心はヒリついた。
こんなこと面と言われて、よく平気だな。
私だったら絶対耐えられない。
しかし、「声」と「心の声」が一緒なんて変わってる。
そう思いながら、私は長谷川くんから離れていく。
私には「心の声を聞く力」がある。
軽く考えることに関しては殆ど聞こえないみたいだけど、その思念が強くなるほどに脳内に激しく響いてくる。
さっき二人が考えていたことも、しっかり。
嫌なら聞かなければ良いと思われそうだけど、「普通の声」とは違い、「心の声は」脳内に直接響き渡る。
だから耳を塞ぐなどの対応は取れず、ただ一方的に話を聞かされるような状態を受け入れるしかない毎日。
私に出来ることは、嫌われないように気をつける事と、力について悟られないようにする事。
そう思い、何も言わず。心の声に反応せず。ただ毎日、笑い続けていた。
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