1話 私の秘密を知った彼

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 数日経った放課後。  クラス委員の顔合わせが終わり、私は教室に戻るところだった。  その心はザワザワ、胃はキリキリし。不安な気持ちに押し潰されそうで苦しい。  というのも、十月末に行われる学園祭の実行委員に、二年生代表として選出されてしまったからだ。  どうしよう。男子のクラス委員の鈴木君、絶対嫌だと思うよね?  今日は急用で委員会に出れないと言っていたけど、本当は私に押し付ければいいやと思っている「声」を聞いている。  それだけじゃない。今日の委員会だって、「二年生代表は気の弱そうな私に押し付ければ良いや」と考えている声が複数聞こえてきた。  はぁ、まただ。  また大変なことを押し付けられてしまった。  誰かに、辛いと話したい。手伝ってと頼みたい。  だけど、教室には誰も残っていないのだろうな。  南ちゃんも絵美ちゃんも。  ……だけど、どこか安心している自分もいる。  もし。もし、私の心を読んでいる人がいたら私のことどう思うのだろう? 性格悪すぎだよね?  そう思いながら、外より響く蝉の鳴き声に耳を傾ける。  いいな。蝉は。ただ一生懸命に鳴いて、短い人生を謳歌することだけに直向きに生きている。  人間みたいに嘘も吐かないし、嫌なことも考えない。自分のウジウジさに、泣けてくることも。  私も蝉みたいに遠くに飛んでいけたら。大きな声で鳴けたら。地上に出て一週間の命だったら。  もしそうだったら、これほど悩まなかっただろう。  校舎の四階からの景色は、いつの間にかオレンジ色に染まっていた空に、見下ろせば真っ平の地面。  しばらく見つめると、まるでこちらを誘い込んでいるような錯覚を起こしてしまう。  私は人間。空を飛ぶことは出来ない。  そんな当たり前のことぐらい分かっていたけど、気付けば閉められていた窓をそっと開けていた。
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