卵焼きを食べたい

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 ブラインドの隙間から柔らかな春の日差しがオフィスに差し込んでいた。 俺は室内の空気を入れ替えようと、ブラインドを開けに席を離れた。窓を開けると、窓の外に見える木々が春の訪れを祝うように、いっせいに芽吹いているのが見えた。  休憩時間なので、俺以外のほとんどの職員は昼食を取りに外出していた。 先ほどまで嫌というほど鳴っていた着信音はピタリと止まり、安堵のため息をつく。席に戻ってすぐにノートパソコンを閉じ、机の下に仕舞っていた鞄から黒い弁当箱を取り出した。  広げると、大好物である卵焼きのあまい匂いが鼻腔をくすぐった。ふんわりと焼かれた黄色いそれは、箸で割ると中は柔らかくとろっとろで、冷めてはいるがとても美味しそうだ。  お腹減ったなぁ……そう思ったのも束の間、俺は箸をおき、弁当の蓋を閉じた。    
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