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episode 61 後悔
若葉彩る森林公園には子連れの家族やカップルが憩いの時間を楽しんでいる。テントもあちこちに見られていて、その光景をベンチに腰掛けて見ている男がいた。
男は70代くらいの老人で、彼の足元にはB4用紙がすっぽり入れそうな幅広のトートバッグが置かれている。革製で所々に罅割れた傷があって、年季がある。
老人の方向へサッカーボールが転がっていく。次いで5歳児くらいの少年がボールを取りにやって来た。老人はサッカーボールを手に取ると、少年にむけて転がしてやる。少年はぎこちない手つきでそれを受取り「ありがとう」と返した。老人は軽く手をあげて見送る。
老人は左側から誰かが近づいてきていることは知っていた。間もなく、その誰かは老人の手前で足を止めた。
「ひどい怪我じゃないか」
しわがれた声で老人が言う。
そこにいたのは、松葉杖をつき、頭に包帯を巻いた20代くらいの若い男だった。
男はどこか恨めしそうに老人を睨んでいる。
「足は怪我じゃない」
怒った声で男が言うと、老人は片目を瞑ってみせる。
「………」
「俺の脳を返せ」
老人に向けられた黒い銃口。老人はその先を白けた目で見つめている。
「わしを殺しても、お前さんは助からんぞ」
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