episode 61 後悔

6/12
前へ
/334ページ
次へ
彼がコーヒーを飲み終えるまで、携帯に動きはなかった。それに新たに入ってきたカフェの客にも、老人はいない。 (1杯食わされた気分だな…) ミノが独りごちた、その時。 茶封筒から着信音が鳴り響いた。 ミノは一瞬驚きながらも、平静を取り戻して、携帯を抜き取った。もちろん画面には非通知と記されている。 通話ボタンを押したあと、ミノはしばらく黙っていた。 「私の依頼を受けた方ですね」 ミノはまだ黙っている。 「慎重な方で、安心しました。 私に、あなたは見えています。」 しわがれた老人の声は、古い携帯機器のせいで雑音混じりに聞こえる。ミノはハッとして周囲を見回した。 「これから通話したまま動いてください。」 ミノは深呼吸をして、頷くジェスチャーをした。 「席を立ったら、会計はしなくて結構。 私が既に支払っていますから。 そのまま店を出てください。」 携帯を耳にあてたまま、店員に目を向ける。ウェイターはニコリと笑ってから、店の出口の方に目をやった。よく見ると、ウェイターの左耳に無線機がついている。 (雇ったのか) ミノは感慨深く思いながら、店を出ていく。 「12番出口から地下駐車場に向かってください。 そこに赤いポルシェがあります。」 「待って」 12番出口まで300mある。 先走らないように、ミノが遮った。
/334ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加