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彼がコーヒーを飲み終えるまで、携帯に動きはなかった。それに新たに入ってきたカフェの客にも、老人はいない。
(1杯食わされた気分だな…)
ミノが独りごちた、その時。
茶封筒から着信音が鳴り響いた。
ミノは一瞬驚きながらも、平静を取り戻して、携帯を抜き取った。もちろん画面には非通知と記されている。
通話ボタンを押したあと、ミノはしばらく黙っていた。
「私の依頼を受けた方ですね」
ミノはまだ黙っている。
「慎重な方で、安心しました。
私に、あなたは見えています。」
しわがれた老人の声は、古い携帯機器のせいで雑音混じりに聞こえる。ミノはハッとして周囲を見回した。
「これから通話したまま動いてください。」
ミノは深呼吸をして、頷くジェスチャーをした。
「席を立ったら、会計はしなくて結構。
私が既に支払っていますから。
そのまま店を出てください。」
携帯を耳にあてたまま、店員に目を向ける。ウェイターはニコリと笑ってから、店の出口の方に目をやった。よく見ると、ウェイターの左耳に無線機がついている。
(雇ったのか)
ミノは感慨深く思いながら、店を出ていく。
「12番出口から地下駐車場に向かってください。
そこに赤いポルシェがあります。」
「待って」
12番出口まで300mある。
先走らないように、ミノが遮った。
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