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コンビニを出たら、あとは草のしげみや住宅のカゲにかくれたりしながら次の交差点までずっとまっすぐ進むだけだ。ゾンビもあちこちにいるけど、ものかげに隠れて進んでいけばバレることはない。
それでも、足音を立てないように少しずつゆっくりと進んでいく。もし、大きな音を立ててゾンビに気づかれてしまえば、この道にいる全部のゾンビに見つかってしまう。だから、しんちょうにしんちょうに進んでいかないといけない。
交差点の前には病院がある。精神病院だ。カギがかけられていて、外からも中からも入ったり出たりすることはできないけど、前にここを通ったときに窓にひとかげが見えた。ゾンビに人がかまれていた。血が噴き出して窓にかかって。病院の人なのかかんじゃさんなのかはわからないけど、飛びちった血は今もその窓についたままだった。
病院の中でもきっと、外と同じように食べたり食べられたりがくり返されたんだと思う。ゾンビにならなかった人はきっといない。みんな、みんなカンセンしちゃったんだ。
ボクは病院の石のかべの後ろにかくれてまっすぐ交差点を見た。あいかわらずゾンビがウロウロしている交差点の先には、交番がある。警察官らしい人はいない。中には銃があってゲームや映画だったら銃を手に入れてゾンビとたたかったりするんだろうけど、子どものボクに使えるわけない。子どもじゃなくてもきっと、日本なら使える人は少ないんだろうけど。
付かなくなった信号機の電柱をゾンビが意味もなくかじりついていた。お腹が空いているのかもしれない。その先、坂を上っていけば目的のスーパーがある。
ここからは──また走るしかない。走って走ってスーパーに逃げこむしかない。
ボクは近くに落ちていた太めの木の枝を拾った。これでもないよりは少しでも勇気がもらえる気がした。
タイミングが難しい。行くぞ、行くぞと思ってもゾンビがあちこちにいるから足が動かない。いつもそうだ。スーパーへ向かう交差点は、さっきの交差点よりもずっと長くて交差点の先は坂道だから走っても追いつかれてしまうかもしれない。
でも、行かないといけない。新しいお父さんの体を見つけに、家族で食事をするために。
目の前のゾンビがボクに気づいたみたいに急にこっちを見た。あぶらぎった顔にきたないヒゲがびっしり生えている。ボサボサの髪もあぶらだらけで左に右にくるくると回る目はとてもとても赤かった。
なのに、ボクの足は走ってしまっていた。
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