部活動見学

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部活動見学

 校庭、部活棟、体育館、校舎の教室で部活動紹介および勧誘を行っているらしい。  ここは剣と魔法の世界。  せっかくなら異世界らしい部活を見たいと考えていたが、サッカー、バスケ、バレー、卓球などの前世であった部活がむしろ存在しない。うーむ、それはそれで寂しいけど。 「魔弾部があるらしいわ」 「なにそれ?」 「ふふ、メルフェンさん知らないのですか。見に行きましょう! 体育館でやってます」 「おいおい、お前は魔弾もしらないのかよ。一大分野だと思うが?」 「メルフェンだけど? お前じゃない」 「あー、分かってる。メルフェン、行くぞ!」 「うん」  体育館へ向かう。  一度靴を履き替えて体育館で履き替えるのだ。  なお、ペンのようなものを振ると靴が消える。再び振ると靴が出てくる。詳しい仕組みは分からないが、やはり異世界を感じる。  貴族制度が廃止された世界である分、文明レベルも高いのかもしれない。 「ここかしら」 「おお!」 「魔弾って打てば必ず当たる銃みたいなものだよね」  体育館に入ると、そこは異世界だった。  異世界なんだけど。  目の前には巨大な結界があって、中に二人入っている。  魔法陣が展開され手の平から無数の魔法が飛び交う。  色鮮やかな魔法が何度も相殺されて散る。  足元にはマークがある。 「これは?」 「新入生だよね。これは魔弾って言って魔法を撃ち合って相手をずらしたら勝ちなの。普段は魔法自体を極めたり、射撃を極めたり、対応の練習をしたりするわ。ちょっとだけ体験する?」  私たちの前に先輩が来た。   「俺はやってみたい!」 「分かった。私に魔法を撃ってもらおうかしら。私は攻撃しない。時間までに私を動かしたら勝ち」 「やります!」 「みんな、新入生来たから結界使わせてもらうわ」 「え、ハンナさんが相手にするんですか?」 「殺さない。大丈夫、大丈夫」  部員が引きつった顔をしている。  ハンナという人がヴェンドに魔弾を体験させてくれるらしい。  二人は結界の中に入った。 「おいで。始めから全力でいい」 「俺様の本気を受けるんですか?」 「もちろん。来なよ?」 「行きます!」  ヴェンドの目つきが変わった。  魔法陣が三重に展開される。 「筋は悪くなさそうだね。さあ」 「『王の柱(ケーニヒ・ゾイレ)』!」  槍状の氷が高速でハンナさんに迫る。  ハンナさんは愉快そうに笑った。 「試し撃ちしてもいいくらいなのに」  手から火炎放射が出る。  すぐに水に変わった。 「くっ」 「私にも一つくらい隙があるだろ?」 「食らえ!」  氷の欠片がハンナさんを襲う。  ハンナさんは顎を手で撫でながら、同じ氷魔法で撃ち落とす。 「同等の魔法が作れれば相殺できる。魔弾の基本はこれだよ」 「『王の柱』、『王の柱』、『王の柱』!」 「大技を三連続か。雑だけがその根性と覚悟、やる気は称賛する。強いて言うなら幼すぎた」 「ええ?」  ヴェンドは腑抜けた表情になる。  そのはず、氷を生成する途中で魔法陣が消えたのだ。  すぐに真っ青な顔に変わって膝から崩れた。  ハンナさんは攻撃しないといってもヴェンドは足を動かしてしまった。 「な、なんだ。今の」 「魔法陣を直接消した。速射性が低いと魔法陣を乱して消せるんだよ。『王の柱』三連続をまともに受けたら怪我しちゃうからね。あー、泣かないで」 「な、泣いてないし!」 「私は今四年生だから。入学式でその強さ、君はまだまだ強くなれる。三年後、私より強いと思うよ」 「そう、ですか」 「そうなんだよ」  ヴェンドは疲れ切った顔だった。  ハンナさんは満足そうだ。 「君たちはどうする?」 「私は遠慮しておきますわ。メルフェンさんは?」 「私はもっと弱いので」 「はあ? メルフェン、俺より弱いのか?」 「弱いよ。中級魔法を連射できないから」 「そうか」 「がっかりしてる?」 「してないが。そうか、俺様の方が強いか。メルフェンもかわいいところあるんだな」 「私毎日かわいいって言われてるけど。家族に」  両親にも兄姉にも毎日かわいいって言われてるから。  魔弾部を抜けると、ボールを使っている部活もいくつかあった。  私たちが次に立ち止まったのは剣術部だ。  木刀を相手の身体に当てるか、相手の木刀を弾いたら勝ちらしい。 「おお、新入生か」 「私、先輩にお相手してほしいですわ」 「え、ええ? どういうルールにしようか」 「互いに守りの魔法をかけてください」 「いいけど。魔法は使用禁止だけどいいよね?」 「もちろんです。私、強いので」 「なら入部歓迎かな。俺は今いる部員の中で一番強いけどいいよね?」 「知ってます。だから声を掛けました」 「そっか」  他の部員が集まって、戦う人とリーベに魔法を掛けていた。  そして木刀が手に渡る。 「よし、始めようか」 「はい。だからこれは軽いお試しです」  瞬間リーベの姿が消えた。  先輩は木刀を胸の近くに引くことで辛うじて防いでいる。   「隙がない。強いね」 「そう言ってもらえてホッとしました。私はリーベ・ザフィーア。剣術で負ける気はないです」 「名家だね。それは強いや」  リーベの木刀を強く弾く。  すると木刀の向きを変えた。  無数の刺突が襲う。  風を切る音。床を踏む音。 「剣が上手いね。力の差で押すつもりだったのに刺突に変えたんだ。俺に勝つ気だね」 「少なくともそのつもりですわ」 「厄介だ」  先輩は一歩引き下がる。  刺突が届かない間を作ることに成功していた。  つまり薙ぎの構えをする隙がある。 「力で押すしかないもんな」 「そうですか」 「って」  リーベは一気に足を畳んで木刀を避ける。  そして木刀を蹴るようにしてさらに跳んだ。 「決まるッ!」  先輩は一度下がった木刀を力で上げる。  空中のリーベに木刀が迫る。 「人の腕は力の入りにくい方向があります」  リーベは先輩の木刀を突く。  木刀と木刀が直撃する。  先輩は木刀を握り締めて弾いた。  リーベは華麗に着地する。  スカートが花びらのように浮いていた。 「ではもっと早くします」 「負けそうじゃないか。ほしい人材だなッ!」  リーベと先輩が息を整えながら睨み合ったときだった。  体育館に巨躯が入り込む。  轟音。  床が割れる。尖った木片の先がリーベに迫った。  防御魔法のおかげで刺さらずに済んだが。 「あー、こんなはずじゃあ」  龍に乗った少女。  見覚えがある。 「みなさんすみません。あはははは。私、マーレライ・ベダハトです。マーレって呼んでください。先輩方よろしくお願いします。あはははは」  マーレは苦しそうに笑顔を作る。  ……。  間違いないッ。  私のラブコメがそう告げている。 「彼女、絶対そうだ。正ヒロインだ!」  気分が高揚していくのが分かる。  一方で、リーベは放心状態で膝を付いていた。  ヴェンドは死んだ目でマーレと私を見ている。  男向けラブコメでいう正ヒロイン、恋愛ゲームでいう主人公、私のなかのラブコメが叫んでいる喜んでいる。 
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