異世界の私。

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異世界の私。

 剣と魔法の世界。  私は、『メルフェン・インゼル』として生を受けた。  インゼル家の次女で、五歳年上の長女シェルベと三歳年上の長男リヒトがいる末っ子である。女神のいうように裕福な家庭できょうだい仲も非常に良い。  日本のように四季も存在するあたり、前世でやりたかったことができる環境だと満足している。  幼少期は姉や兄に遊んでもらいながら魔法やその他の文化に慣れていった。  外の世界では魔物や魔族、魔道具があるらしいが、家庭環境が良すぎるからか触れられないでいた。  ただ姉や兄の影響で本が多いことは嬉しかった。  それに両親は親馬鹿、兄や姉はシスコンと大変甘やかされて生きていた。  実に満足である。うん。 「愛しの愛しのメルフェン、今日から魔法学園かい? 実に制服も似合っている、そして魔法の杖も似合っている。かわいい、かわいい、きゃわきゃわッ」  ようやく前世でいう中学生の年齢になった。  私が住む国では魔法学園というものがあり五年間通うことになる。  学校、つまりラブコメ射程圏内なのだ!  ちなみに兄は私の頭を撫でてくる。  というか。 「メルフェンちゃん、今日もかわいいわね! あーかわいい」  姉は私の腕を掴んで頬ずりしてくる。  ラブコメをしたいと言ったが、変態兄姉がほしいとは言っていない。  こればかりは女神の無知が引き起こしたミスだろう。  多少は目を瞑ってやる。 「ねえねえ、時間があったら会いに行ってもいいかい?」 「嫌だ」 「あ、ああ。メルフェンを怒らせてしまった!」 「リヒト、仕方ないわね。私に任せなさい。メルフェンちゃん、お菓子食べる?」  姉がツンデレみたいな口調で常にデレデレしているのが気になる。  私のなかのラブコメがそれは違うと悲鳴を上げているのだ。 「私はもう行きます」 「あ、うわあ。もう、リヒトのせいなんだからねッ」 「シェルベ姉さん行ってきます」 「かわいい、かわいい」 「姉さん、俺も行きますね」 「うん。私だけが仕事行きなんてあり得ないわ。私もリヒトやメルフェンちゃんと一緒がいいのにッ」  姉、号泣。  リヒト兄さんに連れられて魔法学園の入学式だ。  家から出るとリヒト兄さんはペンほどの大きさの棒を取り出した。  キャップを外して振る。  地面に魔法陣が現れた。 「メルフェン、手を繋ぐかい?」 「私をいつまでも子ども扱いしない」  私の前世は高校二年生までだ。  だからリヒト兄さんに対してはどうしても素直になれない気がする。  シェルベ姉さんは姉って感じが強いけれど。  学園のすぐ外まで転移した。  前世の高校の五倍は広そうだ。   「メルフェン、まずは教室まで行くんだ。それから講堂に出て入学式」 「なら一人で行けるわ」 「ええ、兄ちゃんともっと一緒にいたくないの?」  リヒト兄さんが泣きついてくる。  私がドン引きして一歩引いていると、悲しそうに離れた。 「メルフェン、じゃあ。頑張れ」 「あ、うん」 「冷たい!」  リヒト兄さんが去っていった。  ここからは私一人だ。  まずは外にある掲示板に張り出された紙を見て教室を確認する。  やはり日本と変わらない。 「たぶんあれかな?」  糊がまだ残っていそうな皺のない制服を着ている集団。  一か所に集まって背伸びしたり詰めたり押し合ったりしている。  危ない、気がする。  一歩引いたところで待つことにした。  すると銀髪の少年が背負い鞄から魔法杖を取り出す。  ……え?  これってもしかして。 「俺様の邪魔だ。だから低レベルのやつらは」  杖の先に鋭利な形の氷が形成される。  表面に凸凹がある。しかし、菱形のような形で刺さると怪我をするだろう。 「君、待って」 「はあ? 俺様に逆らうのかガキが」  ……。口悪い、怖い。  リアル人間って怖い?  けどこの感じって、このキャラって俺様系?  ラブコメ始まる? 「あなたもガキだと思うわ」  ラブコメ、ラブコメ、ふふふふふ。  ラブコメ、ラブコメ、ふふふふふ。  ラブコメ、ラブコメ、ふふふふふ。 「こ、怖い笑みだ」 「あ、そうだ。私はガキじゃなくて、メルフェン。メルフェン・インゼル。ここで問題を起こすのは良くないでしょ?」 「でも邪魔なんだよ。俺様は今すぐ掲示板を見たいんだ。俺様を待たせるな」 「わがまま」 「はあ?」 「俺様系キャラはそんなんじゃない!」  ちなみに私は男向けおよび女向けラブコメをどちらも愛している。  私の前で『俺様』を使った以上、俺様キャラの極意を叩き込む必要があるわッ。 「怖え。って、あ」  自称俺様が情けない声を出すと、鋭利な氷が集団に向かっていく。  私は慌てて手を飛ぶ氷に向ける。 「これなら私でも」  氷はひびが入る。  砕けて散った。 「お前のせいで危なかっただろうが?」 「私は防いだだけだよ?」 「あー、もういい。そろそろ空いたし教室見るわ」 「だから私はメルフェンですよ」 「分かったよ、メルフェン」 「え、呼び捨て」 「なに照れてるんだよ、調子狂うんだよ」 「私、男の子に呼び捨てされるの初めてかも」 「はあ、入学式だし俺だって女の子の名前呼ぶの初めてだっつーの! 全く」  私の場合は前世からってことだけどね。  私も掲示板の紙を見る。  教室は、えーと。  視線が重なった。  つまり。 「一年間よろしく俺様くん!」 「俺は俺様じゃない。ヴェンド・シュメルツ。ヴェンド様だ!」 「子供なのかな?」 「お前、……メルフェンもだろ! 子供だろ」 「ごめんなさい、そういうことじゃないから」 「どういうことだよ。ってか一年間どころじゃないからな」 「そうなの?」 「魔法学園のこと知らねえのかよ」 「うん。教えてね、ヴェンド」 「くっそお。よろしくってことにしとく、メルフェン」  こうして私は自称俺様と同じ教室になったのだ。  ヴェンド・シュメルツか。  ラブコメできるといいけど?
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