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入学式です。
教室に着いた。
どうやら席が決まっているらしい。
私は後ろの窓側席。
女神様も多少はラブコメを分かっているらしい。
「どうして俺様がお前の隣なんだよ!」
「ヴェンド。私はメルフェン」
「分かったって。しかし本当に隣かよ」
「もしかして嫌だった?」
「んなこと言ってないだろうが。俺様は少しだけ驚いた。でも多少は話せるやつが隣でホッとしてる」
……。
どこにデレ要素が?
なんて思うけれど。
「そう」
同学年とまともに話したのはいつぶりだろうか?
「初めまして、私はリーベ・ザフィーア。あなたは?」
前の席の人だ。
金髪の美少女。
女性向けなら、悪役令嬢でも主人公の良き理解者でも良い!
男性向けならお嬢様なかき回しキャラ。ツンデレ属性はシェルベ姉さんもいるし、もうお腹いっぱいかな。うーむ、お転婆しっかりキャラとか?
「私はメルフェン・インゼル」
「メルフェンさん、仲良くしましょうね!」
「はい!」
「元気なのね」
「しっかりキャラ!」
「? そうね、私はクラス長に立候補したいと思ってますわ」
「来たよ、来た。ヴェンド。これだよ、分かった?」
「急に話し掛けるなよ」
「あなたは? 私はリーベ・ザフィーアです」
「俺はヴェンド・シュメルツ。俺様は最強の魔法使いになる男だ!」
「夢が大きいのですわね」
「うーむ。でも子供だよ」
「メルフェンもだろ!」
「そういうことじゃないけど」
「どういうことだよッ!」
話しをしていると、ようやく背の高い女性が入ってきた。
先生だろう。
長い青髪が凛とした印象を与える。目力のあるツリ目は、黄金色の瞳を際立たせる。
二つのあれも十分な大きさ、腰ラインの造形も美しい。
これこそラブコメの先生?
私はのんびり寄り添ってくれる系先生の方が好みだけれど。
バトル系の魔法学校に思われてくる。
女神様は勉強不足だ。
「私がこの教室の担任を務める、ゼーレ・ホーニヒだ。これから入学式のプログラムについて説明する」
それから廊下に並ぶ。
中学校や高校っぽいのかも。
魔法学校らしさを味わっていない。
ヴェンドが氷魔法を放って、その氷を私が砕いただけだ。
ラブコメができれば魔法はさほど重要ではないと思っている一方で、今まで家族に魔法を見せられてきたのもあって、魔法に対する期待も少なくないのだ。
「ここが講堂だ。順に座っていけ。緊張もある、周りには新しい仲間。話しが盛り上がりにくい状況なのは分かっているが、それでも式が始まったら静かにな」
私たち新入生は前方の席に座る。全部で九クラス、各二十数名といったところだろうか。
私はヴェンドとリーベに挟まるように座った。
「メルフェンさん、新しい生活楽しみですわ」
「ふふふ、当然当然。ラブコメする、ついにラブコメする」
「メルフェンの目がきらきらしてる。ま、眩しいッ」
「希望の光ですわ。メルフェンさんと友達になれて良かったです」
「え? 私たち友達なの?」
「ここまできて違うとは言わせませんよ?」
リーベは挑発的な笑みを浮かべる。
一瞬涙が浮かんできてしまった。
そっか。
友達ができたのか。
「リーベ、その通りだよ。私たち友達」
「そうですわ。帰りの部活動巡り一緒にしましょう!」
「もちろん。けどリヒト兄さんが付いてくるかも」
「お兄さんがいるんですか?」
「三つ年上なの。リーベ、丁寧語じゃなくていいよ」
「私、この話し方が一番慣れているので。では決まりですわ」
「ありがと。そろそろ式が始まるみたい」
厳かな空気が流れる。
先生の一人が司会として場を仕切っていた。
最高学年である五年生の挨拶。
前世よりは短い話だが、やはり似ている。
新入生代表の話。
薄赤のロングヘア。その人が舞台の上で話しを始めると暑くなってきた。
周りを見渡すと汗を浮かべる人たちがいた。
これが魔法?
絶対そうだ。
魔法っぽい!
「私が新入生代表の、マーレライ・ベダハトです。うう、どうして私がこんなことに。お父様、私が人前苦手なの知ってるでしょう。うう、もう」
周りに聞こえる声で呟いている。
マーレライは紙を取り出すと細く小さい声で話す。
前の席の私でさえも怪しい。
先生たちは落ち着きがない。
地獄のような空気だ。
それから学園長が話す。
司会の先生が新入生を誘導して退場させる。
担任と共に教室へ戻った。
マーレライさんの心に傷ができなければいいが。
「これで入学式は終わりだ。明日から新入生テストが行われる。これは班決めやクラス内の役割決めに使われるものだ。手を抜かず全力で行うように。解散」
先生が去っていた。
教室の空気が緊張で包まれる。
あれだ。
誰と仲良くすべきか話し掛けるべきか牽制しているのだ。
ん、前世でもあった。
「さあ、メルフェンさん行きますわ」
「うん、そうだね。ヴェンドも来るでしょ?」
「はあ、どうして俺なんだよ」
「嫌ですか?」「嫌なんだ」
「言ってない、俺様も行く。ありがたいと思え」
「嫌ならいいですが?」
リーベが追撃する。
ヴェンドの眉がぴくりと動いた。
やめてあげて。
「変なこと言ってないで行こう。リーベ、どこに行くか決めてる?」
「学校の探検も兼ねているのであまり考えずに歩こうかと」
「いいね。だってさ、ヴェンド。気合入れるよ」
教室を出る。
すると看板を持った先輩たちが襲ってきた。
正確には恐ろしい形相で迫っていた。
……。
逃げよう。
うん。
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