マーレライ・ベダハト

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マーレライ・ベダハト

「あのマーレさん。新入生代表だった方ですよね?」  私は正ヒロインに接触することにした。  マーレは龍から片足ずつ降りる。 「はい、私です。マーレです」 「やった。私は、メルフェン。仲良くしたいわ」 「目がキラキラしてる……。仲良くしましょう。あ、その」  マーレは見渡すと、頭を深々と下げた。 「すまない。この子は普段は大人しい龍ですが、マーレさんの魔力でひどく興奮してしまったようです。乗龍部一同から謝罪します」  長髪の男。龍を飼っている部活の部長らしい。  それにしても。  マーレは、どこまでも正ヒロイン属性だッ。 「マーレ、これから私と……」 「メルフェン、大丈夫か?」  マーレを誘おうとしたが、慌てて駆けてきたリヒト兄さんに掴まってしまった。 「リヒト兄さん?」 「轟音がしたから心配で」 「どうやら、マーレが龍を暴走させてしまったらしい」 「龍が暴走か。これは乗龍部には相応の罰が必要みたいだね」  リヒト兄さんが言うと、乗龍部の部長が頭を下げる。  しかし。  兄さんは頭を左右に動かした。 「これは私の責任です!」  マーレは手をリヒト兄さんに向ける。  つまり、抗戦の表れだ。その手は震えている。 「マーレライさんのせいにして初日から停学処分ですか? どちらにせよ、部の責任は」 「兄さん」 「メルフェン、どうした?」 「龍が怯えています。それと、マーレの魔力で龍が暴走したと発言がありました。調べる必要があります。それから罰を決めるべきです」 「そうか。メルフェンの言う通りだな」 「ところで、兄さん」 「どうした?」 「何者なんですか?」 「え? お兄ちゃんが生徒会の副会長って知らない?」 「生徒会の権力って強いの?」 「こういう出来事に介入するからな」 「そうなんだ」  ラブコメの鉄則、生徒会の権力が強い!  この異世界にも生徒会があることが嬉しい。 「メルフェン、私。これからどうなっちゃうかな?」  マーレが言う。  私は罰については分からないけど、重い罰であれば兄さんに話しをするつもりだ。  正ヒロインが停学になってしまうのはショックである。  後日、罰が決まった。  乗龍部は一か月の活動停止、体育館の補修の手伝い、屋内外の清掃活動、反省文の処分が下った。なお、マーレは一週間トイレ掃除らしい。  そして、新入生テストが始まるのだった。 「では、新入生テストの時間だ。魔法の扱いについてテストを行う。全力を出せ」  ゼーレ先生の指示で校庭に集まる。新入生が九クラス分集まっているらしい。薄赤の髪、マーレはよく目立つ。友人に囲まれていた。友人が女の子ばかりだ。さて、男向けヒロインか女向けヒロインか。 「メルフェンさん? マーレって人が気になっているんですの?」 「リーベ、昨日は災難だったね。剣術すごかった」 「私は剣術の名家なので。魔法も負けるつもりはありませんが。もっとも、ヴェンドさんみたいな蛮族に負けるはずもなくて?」 「はあ? 脳筋女に負けるわけないだろ? 俺様の魔法は強いんだ。昨日褒められてただろ?」 「ボロボロでしたわ」 「でも新入生なら最強だ!」 「そうかしら?」 「リーベ、ヴェンド。喧嘩しないで」 「俺様はそんなガキじゃないぞ!」 「メルフェンさん、すみませんでした」 「ねえ、マーレから歓声が聞こえてくる」 「あれはゴーレムを作って動かすテストですわ。どれだけ大きいゴーレムを作れるかです。作ったうえで動かせればその最大のサイズが評価されます。でも、あれは」  校舎よりも大きいゴーレム。ゴーレムの肩には涙目のマーレがしゃがんでいた。 「こんなつもりじゃ。誰か下ろしてください!」  どうやら降りる方法がないらしい。  マーレはゆっくりと立ち上がる。  しかしバランスを崩して頭から落ちる。  瞬間、一人の少年がお姫様だっこの形で受け止めた。  まさに、正ヒロイン!  拍手が聞こえてきた。  やはりマーレと仲良くする判断は間違いないようだ。 「馬鹿ね」 「ああ」  リーベとヴェンドはマーレを見て呆れていた。 「では、魔法で花を咲かせてほしい」  ゼーレが言う。  前に並んだ生徒たちが手を苗に向ける。  顔が梅干しのように変わっていく。 「次のテストへ。次は」  ようやく私たちの番が来た。 「俺様すごいんだぞ!」  ヴェンドは三輪咲いた。  白、青、赤の三種類。先生は嬉しそうに口角を上げる。 「そうかしら?」  リーベは大きな花弁の花を一つ。  私はというと。 「綿毛だ」  茎の先にたんぽぽの種が出来てしまった。  魔法は難しい。最低評価だ。 「メルフェン? 大丈夫か」「メルフェンさん、得意不得意があります」  俺様キャラのヴェンドまで励ましてきた。  うーん、これはこれでギャップ萌えするだろうか?  なんて心の中で盛り上がってたけど。  花が咲かないのは少しだけ悲しかった。  劣等生なのだろうか? 「……。待て」  ゼーレ先生は私を止めた。  私が疑問の表情を浮かべていると、先生は綿毛を吹く。  すると、一本の花に変わって舞い上がった。 「メルフェンさん、残りを」 「あ。はい!」  無数の花が浮かび上がる。  綺麗だ、太陽と踊るイルミネーション。  感嘆の声が聞こえてくる。  魔法が楽しいと思った。
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