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新入生テスト
次はゴーレムを作って動かすテストだ。
担任のゼーレ先生は花の担当であるため、他の先生がゴーレムの担当だ。
「どうだ! これが俺様のゴーレムだ」
ヴェンドが私たちの半分くらいのゴーレムを作った。それは、腕立て伏せをしたり腹筋背筋の筋トレをしたりしている。もちろんゴーレムに筋肉はないがアピールのためである。
次にリーベである。
ヴェンドよりも一回小さい。
私はさらに小さかった。
というよりも。
「人形みたいですね」
と先生に言われた。
むしろフィギュアのようで、色もきちんと付けている。
前世で好きだったヒロインを象った。
「あの、もしかして」
先生はじっとゴーレムを見る。
「スカートを揺らしたり、手足を自由に動かしたりできるのでは?」
「やってみます!」
頭の中の音楽に合わせてダンスをさせた。
リーベとヴェンドが惹かれたのか動かずに見ていた。
「素晴らしい」
「そうでしょうか」
「芸術点はあまり高得点ではないですが、評価には一言添えておきますね」
「ありがとうございます」
次はぶら下がる甲冑に好きな魔法を三種類放つ。
その魔法の完成度で決めるらしい。
「俺様はもちろん、一個目は氷魔法だ」
槍のような氷が次々と甲冑に当たる。
胸の辺りが凹んでいた。
先生は嬉しそうだ。
「次は風だ!」
しかし、残り二つの風の魔法と雷の魔法は氷に対して大きく劣っていた。
新入生にしては高いレベルであるが、中級魔法である氷と比べればがっかりされてしまうのも仕方ないのかもしれない。
「私は、水と土と風魔法かしら?」
「よくできてますね」
「ありがとうございます」
リーベの表情が曇って見えるのはヴェンドに負けたのが悔しいからだろう。
私の番が回ってきた。
私は何にしようか?
「メルフェンさんって強いですよね?」
「どうして?」
「私はましな魔法を三つ選びました。ヴェンドも一番得意な氷魔法、残りはまだまともな風と雷です。でもメルフェンさんはもしかしたらどれでもいいって思ってませんか?」
リーベの声は心配しているようなものだった。
なぜそんな声かは分からない。
それに。
「私は得意な魔法がなくて迷ってただけだよ。決めた。氷と風と土にする」
それぞれ放った。先生はそれを見て頷き、評価を終わらせる。
「メルフェンさんでしたっけ?」
「そうですけど」
「ヴェンドさんの氷魔法ほどではありませんが、凹んでいる箇所があります。威力としては全体の中の上でしょう。でも実際は違う気がしました。このテストは魔法を三つであって、一つの属性の魔法を三種類ではありません。全力ならどうするつもりでしたか?」
「私、先生の期待ほど強くないです」
「そうですか」
続いて、魔法で飛行するテストだ。
……。
誰かお尻を出すようにして頭から地面に埋まっていた。
……。
……。
「君たち、協力してくれるか? 男にはどうしようもないだろう?」
「そうですわね。どうしますか、メルフェンさん」
「私は助けたいな。待ってて」
埋まっている人物は女性らしい。
土魔法で周りの砂を除いた。
その後、私とリーベで引き抜く。
「ぷはあっ。って、メルフェン?」
「マーレだったんだ。リーベ、怖い顔しない」
「するわ。私の試合を邪魔したんだもの」
「その節はごめんなさい。飛行魔法使ってたら操作利かなくなって気づいたら地面に埋まってた」
「馬鹿だろ?」
「そうかな。口が悪いよ」
お付きの男が言う。
流石正ヒロインだ!
隣のテスト場所から女の子たちがその男を見ている。
男向けラブコメで間違いないだろう。
果たして、ここまで正ヒロインムーブをしているマーレに対抗できるヒロインはいるのだろうか?
気になる。どんなラブコメ展開か気になる。
「そろそろ私は行くね。残りのテストも頑張ろうね!」
「はい!」
マーレは次のテストへ行ってしまった。
寂しいがラブコメ展開を観察できた。嬉しい。
「マーレに会うといつも楽しそうですね」
「楽しいよ。見てるだけでも」
「俺、思ったんだけど。メルフェンってマーレライが好きなのか?」
つまり百合ラブコメ?
それも悪くない展開!
しかし問題が多すぎる。
一番の問題は男性キャラが多いのだ。
百合をするならこんなに男は必要ない。
不可侵な神秘なのであるッ!
「ということで、私はその展開は考えてない」
「メルフェン、何言ってるんだ?」
「私はマーレをそういう目で見ることはできない」
「そうか」
丁度前の生徒が試験を終えたようだ。
頭から地面に落ちたらしい。
先生に治癒魔法をかけてもらっていた。
治癒魔法は比較的高度らしい。
「次はあなたたちですね。ここでは、高さ、速度、飛行時間でテストします。怖がらずに飛んでください。落ちても俺が治癒する。だが、マーレライ・ベダハトのように暴れて地面に刺さるやつは知らん。女性の体にむやみに触れるわけにもいかないだろ。魔法すら使いにくい」
「気を付けるわ」「いや、マーレライのようには無理だろ」
「流石は正ヒロイン。テストの度にトラブルを!」
それから私たちは飛行魔法を使って。
まずはリーベが力尽きた。
風魔法を使ってゆっくりと着地する。
次にヴェンドだった。
途中で集中力が切れたのか、着地の途中で急落下して尻餅をついていた。
私も頃合いを見て着地する。
「待て、メルフェン・インゼル。本当はどれだけ飛べた? 高さも速さも時間も遠慮している」
「高さは、これ以上はあまり。速さも似たようなもので。飛行魔法得意ではなくて、何度も家族に教えてもらっていたのですが」
「一つ項目が抜けている。教えてほしい」
「そうですね」
「飛行時間は?」
「一日は問題ないかと」
「試験日程の都合上ってことか。メルフェン・インゼル、次が最後のテストだ」
「分かりました」
最後は魔法の速射性をテストするらしい。
結果は、ヴェンドが最も速く、次に私、最も苦手だったのはリーベだった。
すべての魔法のテストが終わったそうだ。
明日、明後日は筆記テストらしい。
それで新入生テストは終わりだ。
「メルフェンさんって強いんですね」
「家族に教えてもらってたから。すぐにみんなに追い付かれると思う」
「俺様がすぐ抜かす」
「楽しみにしてるわ。あとヴェンドはガキだわ。俺様キャラっていうのはね、もっと大人!」
「こ、こわい」
ヴェンドは私から距離を取った。
それを見たリーベが微笑む。
「面白いですわ、メルフェンさん。お友達で良かった」
「そんなにかな?」
「そんなにです」
「私も友達で良かった」
「メルフェンさん、あまり言われると照れてしまいます!」
「なあ、やっぱり俺は強くなりたい」
「ふーむ。いいと思う」
「メルフェン、俺を鍛えてくれ」
「嫌だ。何のための魔法学園? 学んで強くなるための場所。私なんてまだまだだし」
「即答かよ。それもそうか。絶対すぐに超えてやる!」
「あ、メルフェン。先ほどは本当に助かった」
マーレも試験が終わったらしい。
最後は花を咲かせるテストだったのか。
マーレの頭がお花畑だ。比喩ではない、いろんな花が咲いている。
「ねえ。賑やかな頭だよ?」
「やっぱりばれましたか? あとで先生たちに直してもらうんですよ。制御、難しい。私、ちゃんと魔法が使えるようになれるんでしょうか。テスト全然で」
私はマーレの手を包むように握った。
ポテンシャルが高くて暴走しながら異常な結果を残すのが主人公ムーブであり、正ヒロインムーブである。これからどんなことが起きるか分からないが、おそらく上手く使えるようになって頭角を現すだろう。
「マーレは絶対大丈夫。優秀な魔法使いになれる」
「ありがとう、メルフェン。私、頑張るから」
頭に花を咲かしているからか、その朗らかな笑顔はとびきり綺麗だった。
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