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私の話
「まあ、メルフェン。もう三人も友人がいて素敵よ!」
ついつい鼻が高くなってしまう言葉を言ってくれる母。
「もうこれはお祝いすべきだ、母さん。うちのメルフェンはなんて天才なんだ!」
さらに盛り上げる父。
というわけで、両親は喜んで歓迎してくれることになった。
親馬鹿なのだ、こうなるのは分かってた。
リヒト兄さんはやることがあって魔法学園に行ってしまった。
おのれ魔法学園、と嘆きながら。
代わりに姉さんがいる。
「あらかわいいわ! メルフェンちゃん、今日は休みで良かった。かわいいって言っても一年生で初々しいって意味で、一番は当然圧倒的にメルフェンちゃんなんだからね!」
シェルベ姉さんに事前に友人を呼ぶと話したところ楽しみにしてくれていた。
相変わらず私のラブコメ脳が拒否する似非ツンデレである。
よく考えれば全部デレ発言で、言い方がちょっとツンっぽいだけだ。
でも気にしてしまうのは、きっと長年のラブコメだ。
「今日は失礼しますわ」
そわそわしているリーベ。
わざわざ美味しいお菓子を持ってきてくれたらしい。
しっかり系キャラである。
「お世話になります。ん、んー」
ヴェンドはシェルベ姉さんに手土産を渡す。
途中から目を反らして必死に手を伸ばす。
お姉さん耐性が無いらしい。
……やはりガキ属性で、俺様系ではないのか?
だんだん属性が判断できるようになるとがっかりするものである。
「みんな私のメルフェンちゃんと友達になってくれてありがとね。メルフェンちゃん、私たちはリビングにいるわ。ね? 父さん、母さん」
「シェルベ? 父さんを引き摺らないでくれ! 父さんは、父さんはーッ」
「あらあら」
シェルベ姉さんに首を掴まれる父。
それを愉快そうに見る母。
リーベ、ヴェンド、マーレは引いていた。
私は平常である。
この家庭の当たり前なのだ。はい。
「ここがメルフェンの部屋か。たくさん本がある。分厚い」
「こっちもあっちも図鑑。これが魔法書で、これはレシピ本。それと簡単な語学の本。海外のものもあるかな。私昔から本が好きで」
動かなくても広い世界が見える。
一方で動けない頃は実際にあるか分からない、ファンタジーと何も変わらない情報ばかりだった。外の世界はすべて仮想空間で、と言われても信じるくらいには。
異世界転生して、ようやく読んだものに触れることができる。
目の前で現象を確認できる魔法も大好きである。
「そうだ。マーレ、おすすめの本貸すね」
「私読めるかな? 本当にひどいから」
「なら私が読むよ。ね?」
「優しい! メルフェン大好き!」
「駄目ですけど? 本なら私が読みますよ」
「ほんと!」
「ただしメルフェンさんに頼りすぎないように」
「そうだよね」
「俺も読めるけど?」
「なら頼むかな。私は魔法学園でたくさん学んで父を見返すんだ」
マーレは私が渡した本の背を優しく指でなぞる。
その瞳は瞼が緩んでいるからか柔らかい印象がある。
「マーレの父ってどんな人?」
「勉強好きで研究熱心で、とても強い魔法使い。偉い軍人さん。警察が手に負えない凶悪な魔法使いや考えの古い剣士を制圧する。昔制圧した人間の仲間が私たちを襲って、母が亡くなった。だから私に強くなれって。優しいけど厳しい。無茶苦茶で、新入生代表にされて。私、空気読めないよね」
マーレは膝を組んで座る。
足の指を広げて、手の指と絡ませる。
私は薄赤の髪に触れていた。
「奇遇だね。私も空気読むのが苦手」
前世で長い間病室だったのだ。
転生してから頑張っているが上手く行っているか分からない。
「メルフェンも?」
「うん。マーレは強いよ。それに強くなっていく。苦しいことがあったら私がいる。それにクラスの人に馴染んでた」
「うん。いろいろ運命的な出会いがあって気が合って。奇跡があっただけ」
そこのところ詳しく。
ラブコメだ!
他のヒロインと関わっていくイベントがやはり。
だが今は聞かないでおく。
気になる。実に気になる。
「マーレ。絶対に大丈夫」
「ありがと」
「お前らイチャイチャするなよ」「私がメルフェンさんの隣なんです」
「私、メルフェンを独り占めしないよ?」
「「そういう問題じゃない!」」
ヴェンドとリーベは息を合わせて言う。
もしかしたら意外なところでカップリングするかもしれない。
「そうだ。せっかくだし、入学までの話がしたい。どうかな?」
「え、本当! 私も入れなさい。メルフェンちゃんの話をいくらでもしてあげる。決して、メルフェンちゃんの尊さを知ってもらいたいわけじゃないんだからね!」
後ろにシェルベ姉さんがいた。
お盆にはジュースとクッキーが用意されている。
わざわざ持ってきてくれたのだろう。
……ツンデレ口調のオールデレデレは受け入れがたいものがある。
「聞きたいです!」
リーベが目を輝かせて言う。
「確かに気になるな」
ヴェンドは悪い笑みを浮かべる。
ガキが。
「私も聞いていいかな? ね、メルフェン」
マーレも興味津々だ。
シェルベ姉さんも子犬のようにそわそわしている。
待て、と言いたいところだが。
もう心許せる友であるし、私のことをもっと知ってもらった方が仲良くなれるだろう。
「なんてことがあって、メルフェンちゃんはマイペースで海へ行っても浮かんでるだけだったわ! あとね、魔法書の読みすぎでご飯を食べ忘れたり夜眠るのを忘れたりすることもあった。他には本を創造してた。私も知らない魔法で」
シェルベ姉さんは見ていたのか。
私が女神様にもらった力で、前世の世界にあるラブコメ漫画や小説を読んでいたところも。いつの間に? どうしてばれてる? シスコン力が高すぎるということ?
「なにそれ? 本を作る魔法なんて知らないぞ!」
「メルフェンさんの固有魔法でしょうか?」
「私も読み書きできるようになったら」
ごめん、マーレ。
文字は日本語っていって前世の言葉だから読めないと思う。
うん。
「シェルベ姉さんの見間違え。何かと勘違いしてると思う。本を作る魔法があるなら、今頃部屋に引きこもって読んでる」
「今もじゃないかしら?」
「うぐ」
シェルベ姉さんの言う通りである。
ただ納得してくれたようで別の話に切り替えてくれた。
っていつまで話すのだろう?
私だけの話で終わってしまったが、三人は満足してくれたようで。
私自身も友達が来て満足したのだった。
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