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ラブコメ脳の異世界生活
休日明け。
教室で担任から一人ずつ書類を受け取る。
テスト結果、クラスでの役割などが書いてある。
「今回は、学年平均はここ最近で最も良かった。ではクラス順位を書いていく」
ゼーレ先生が前の黒板に魔法で文字を浮かび上がらせる。
魔法の実技と筆記の各順位は書類に書いてある。
「クラス委員長、副委員長、風紀委員は成績でそれぞれ一位、二位と三位、四位と五位で担当することになる。まずは五位。リーベ・ザフィーア。続いて、四位。メルフェン・インゼル。三位。ヴェンド・シュメルツ。二位は、……」
どうやら私とリーベは風紀委員になったらしい。
ヴェンドに関しては副委員長か。
「五人前へ」
と教卓まで出たときだった。
「メルフェンさんですね?」
「あ、はい」
「僕はニーベル。クラス委員長らしいです。驚きました」
「そうなんだ」
「一目見たときから、あなたの方が強いと思ったので」
「そんなことない。私は全力だったから」
「気のせいではないと思います。僕は」
「?」
「いえ、何でもないです。委員長としてよろしくお願いしますね」
銀髪の少年。
背が高くて落ち着いている。
筋肉もほどよく付いている。
「メルフェンさんと同じですね」
「そうだね」
「何言ってるんだ。俺より評価低いくせに」
「なんですか? ヴェンド、あなたは敵です」
「お前こそ。俺は」
「うーむ。喧嘩しない」
「こんなのと喧嘩するわけはなくて?」「このガキと喧嘩だって?」
リーベは普段はしっかりしている印象だが、意外と感情論の人らしい。
ヴェンドはガキ。ラブコメを叩き込まなくてはならない。
「俺はラエフトだ。頑張ろうな!」
白い歯を見せて拳を胸に添える大男。
同じ年齢なのか?
いわゆる元気な脳みそ筋肉だろう。
二位ということはヴェンドの相方になるわけか。
疲れそうである。
「残りの役目はこれから決めてもらう。頼んだ」
「僕らが仕切るってことみたいだね」
「おう! 任せとけ! な!」
ラエフトの手がヴェンドの肩に乗る。
ヴェンドの顔が死んでいた。重いのだろう。
ニーベルが黒板にチョークで文字を書いていく。
それからまずはみんなに興味がある役割に名前を書いてもらうことになった。
「あれ」
「どうしたんですか、メルフェンさん」
「あの子、机に顔を伏せて寝てる」
「それなら余り物でいいだろ?」
「そうじゃない。たまに顔を上げてる。リーベ、ヴェンド。もしかして前に出にくいんじゃないかな。私行ってくる」
「え?」
「放っておけばいいですのに」
私は後ろの席の男の子のところまで。
「あ、うう」
目が合った。
眼の下にくまができている。
「君はどれにするの?」
「その。あ」
「おいで。ね?」
手を持って席から立たせる。
「文字は読める?」
「半分くらいは」
「私に任せて。左から」
一つずつ丁寧に発音していく。
読み書きが苦手とのこと。
そうなるといいのは。
「飼育係とかどうかな?」
「興味ある」
「あ、抽選になるかも」
「なら候補をあげた方がいいかな」
「他には」
「優しいね。根暗で地味な人間にまで気を遣ってくれて」
「そんなこと思ってたの? 考えすぎ。私はみんなと仲良くしたいから」
「ありがと」
「どういたしまして。名前は?」
「オジアン。オジアン・クライネ」
「よろしくね!」
「うん。よろしく」
飼育係にオジアンの名前を書く。
私は教卓に戻った。
「どうでした?」
「文字が読めなくて怖かったみたい」
「なんだそれ。聞けばいいのに」
ヴェンドは頬杖を突いて言う。
「私もだった。勇気を出すのって怖くて、でもなんとかしたいって思って、やっぱり苦しかったりする」
「よく見てるのね。メルフェンさん」
「かもね」
抽選はニーベルがコインを投げて掴んだときの裏表で決めた。
オジアンは無事に飼育係になったらしい。
授業が終わって。
「メルフェン!」
隣のクラスからマーレが飛び出してきた。
「どうしたの?」
「筆記、最下位でした。そんなことありますう。実技は二位ですよ?」
お転婆ヒロイン感があって良い!
とは本人に言えないものである。
「これから私たちと頑張ればいいよ」
「ありがとう。メルフェンさまあ。ところで、すごい気迫っていうのかな」
「なにが?」
「右の席の子」
見る。
銀髪の男の子。オジアンである。
「知ってる? 魔法の実技満点って」
「そうなの?」
「やっぱり委員長に選ばれたのかな?」
「選ばれてない。あまり読み書きが得意ではないみたいで」
「感覚で魔法を使ってるのかな?」
「どうだろ」
「父さんがどこから聞きつけたのかそう言ってたから。私はさておき、みんなは何位?」
「私が五位、メルフェンさんが四位、ヴェンドのやつが三位でしたわ」
「俺様の方が上ってことだ。分かったかリーベ!」
「剣術で肉塊に変えてあげますね?」
「中級魔法で泣かせてやる!」
「リーベ、ヴェンド喧嘩しないで。喧嘩するほど仲良しなんだけども、危ないことは危ないから」
「ちえ」
ヴェンドはリーベから離れる。
リーベは顔を後ろに向けた。
「すごいですね」
「ねえ、マーレ。魔法の実技は二位なんだよね。私は筆記で逆転したみたいだから」
「マイペースだからですよ」
「どうだろ?」
「もしここで戦ったら、私もリーベもヴェンドも歯が立たない気がします」
「それはないよ。強くないし」
戦うためにこの異世界に来たわけではない。
ラブコメを体験するため、観察するために来たのだ。
もちろん、私もラブコメキャラの一員を目指しているがどうだろうか?
「そうしとく」
「だな」
「メルフェンさんがそういうなら」
ようやく異世界生活も魔法学園編に突入らしい。
楽しみである。
マーレは男向けラブコメの正ヒロインっぽいし。
ラブコメ脳の異世界生活、これからどうなるのだろうか?
(なお、このときはまだ自分が乙女ゲームの主人公ムーブをしていくことを予想もしていない、メルフェン・インゼルであった)
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