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第二十七章 4
「ははは、なんだ、それ。かわ……」
何かを言いかけて止めた。
ん? かわ? 皮? 川?
「っいや、なんでも」
慌てているような気もするけど。
きっとたいしたことではないのだろう。
僕らは自然と並んで歩き始めた。
再会した年のクリスマスイブにもこうして二人で並んで歩いた。
あの時は……雪がちらついていた……冷たくなった手をいっくんが温めてくれて。
まだ樹のことを好きな自分に気づかなかった。
それでもどきどきしていた。
「いっくん、良かったの?」
「何が?」
「僕と顔合わせちゃって」
「…………」
樹は一瞬黙り込んだ。
「……まぁ、今日はクリスマスイブだし、クリスマスプレゼントってことで」
なんか言い訳っぽいけど。
僕に会うことがクリスマスプレゼントになるなら嬉しい。
「そうだよね。今日は特別な日だから、いいよね」
「ああ」
自分で宣言したことを覆したのを少し恥ずかしいとでも思っているのかも知れない。樹はそっぽを向いてしばらく黙っていた。
でも歩く度に触れる腕が温かくて、僕はさっきからきゅんとしてしまっている。
「それ……使ってくれてるんだな」
しばらく歩いて、唐突に触れ合っているほうの腕を取られた。樹の手はすすーっと滑って僕の手に触れる。
今日の僕の手には手袋が。
これは今日玄関先に置かれた樹からのプレゼント。ふわふわ温かな白い毛糸で、手首のほうには薄茶のダイヤ柄がある。
それから、これと一緒に白とピンクの可愛い花束が入っていた。調べてみたら、ストックという花だった。
「うん──ありがとう、いっくんすごくあったかいよ。お花もありがとう」
自分がめちゃめちゃ蕩けそうな顔をしているような気がする。暗くて良かったと思うくらい。
手はすぐに離れ、その手で自分の頭を軽く掻く。
「ナナもプレゼントありがとな……直接礼を言えて良かった」
僕もまた城河家の玄関先にプレゼントを置いた。眠気覚ましに、スティックコーヒーのセット。それから学問の神様が祀られている神社のお守り。
「受験、頑張れそうだ」
寒い冬の夜の暗い道。
いつもバイト帰りは足早に歩く。そんな道を今日はゆっくりと歩いて行く。他愛ない話をしながら。
「俺、弟がいるんだ」
「え?」
突然の告白に驚く。
「え、突然弟できたの!?」
「そんなわけあるか、もう四つだよ。今日クリスマスプレゼント渡してきた」
この道の数少ない街灯に差し掛かったところで立ち止まり、スマホを弄る。画面に小さな子どもの写真が映し出された。前のめり気味にそれを見て。
「いっくんの小さい時に似てる」
「え? 似てないだろ。俺父親似だし」
「んー? なんか、表情とか雰囲気とか?」
「そう?」
少し照れ臭い顔をしている。
今になってこのことを話したのは、樹の中でいろいろと消化出来たのと、僕への信頼が深まったからだろうか。勝手に嬉しく思う。
「可愛いね。今度会いたいな」
「そのうちな」
もっとずっと歩いていたかったけど、もう樹の家の前だ。
「おやすみ」
「おやすみ。いっくん受験頑張って」
「おー」
夜も遅いので僕らはこっそり言葉を交わす。
「──受験前にナナを充電出来て良かった」
樹は背を向けてから独り言のように言った。
★ ★
『合格した』
『いっくん! おめでとう!』
おめでとうのスタンプを送る。
『お祝いする~』
『さんきゅ』
『二人でな』
──そして、卒業の朝──
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