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樹編〜花詞〜 1
「あつっ」
駅の改札前を通り過ぎ、階段を下りて北側の入口から外へと出る。すぐに夏の陽射しがじりじりと俺を焼いた。
夏休みに入ったというのに、俺はこうして学校へと向かう。それもこれも、無事卒業、一発大学合格の為だ。
これ以上七星との差を広げるわけには行かない。
ナナが例え俺のことを『親友』以上には考えられないとしても、俺は……。
★ ★
初めて会った時から気になっていた。可愛くて弱々しい小動物のようで、守ってやりたいと思わせた。
ずっと一緒にいたいと思った、あの『事件』が起きるまで。
あの時……あのまだ癒えていない傷痕を見た時……。
突然血が沸騰したように身体が熱くなった。
七星を傷つけた彼奴らを許せないと思った。それは確かにそのままの意味だ。
しかし。
ナナに一生消えない印をつけていいのは俺だけだ。
そんな歪んだ独占欲。
俺はいつか、自分が七星を壊してしまいそうな程の想いを抱えているのではないかと、自分を恐れた。
ナナから離れなければ。
自分が七星を傷つける前に。
離れていればそんな想いも風化するだろうか。その時はまた『友だち』として再会することも出来るだろうか。
──三年の月日を経て思わぬ再会。
俺の心にはずっと七星がいて、あの想いも風化していなかったことを知る。
いや、もともと風化するはずもなかったんだ。
忘れた振りをしていただけ。
誰かとつき合っても、誘われても、それはけして『恋』にもならず『好き』という感情すらなかった。
ただ、心の中にある七星を振り切る為に──。
初めは本気で突き放そうとした。それでも今の七星がどんどん俺の心の中に入り込んで来て、歪んだ独占欲は『恋』に変化したんだ……。
★ ★
そういえば、もうすぐナナの誕生日。
プレゼント、どうするかな。
いつもの道を学校まで歩いて行く。
怪我も良くなり、五月辺りから再び自転車通学にしたのだが。
『ダメだよ~。今年めっちゃ暑いから』
『熱中症になっちゃうよ。途中で倒れたら大変だから~』
七星にやたら心配され、せめて夏期講習くらいと押し切られ、夏の間はバス通学だ。
元々バイトで遅くなった時に、バスの時間に間に合わない可能性を考えてのことだった。今はそのバイトもしていないので、必要ないといえばない。
この通りには二月に開店した花屋がある。
店の前まで来て俺は立ち止まった。
まだ開店前のようで、半分シャッターが下りている。
花……いやいや、ないだろう。ナナが花を特別好きってわけでもなさそうだし、男に花って。
俺はゆるゆる頭を振った。
「少年! また彼女へのプレゼントか~?」
店先で開店準備をしていた女性が声を掛けてきた。
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