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憂鬱
小学校最後の夏休み。
ひと夏の人生を思いっきり楽しんでいるように、けたたましく鳴く蝉。
よく日焼けした肌に、プールバッグを持ち、友達とお喋りしながら歩く集団。
ひんやりとした車内から見える景色を眺めながら、日焼けをしていない自分の腕を見た。
「…いいなぁ」
ポロッと出た言葉をすぐに拾うように、運転をしていた母親の視線がバックミラーに映った誠吾を射抜く。
「遊んでる暇があるなら、勉強なさい。貴方は、もうすぐ受験で今が追い込みなのよ?あそこに受かるのが、今の貴方に必要な事よ。」
「うん、分かってる」
小さく吐き出した返事は、その後も続けられる母親の小言に掻き消されていた。
ただ開いただけの参考書に視線を移した。
CMでも有名な3駅先の塾に着くと、シートベルトを外し、持っていた参考書を閉じた。
「行ってきます」
「今日の小テスト、しっかり点を取りなさい」
行ってらっしゃい。の代わりの言葉を聞いてから車のドアを閉めた。
滑らかな動きをして開いた自動扉の向こうに足を向けながら、夜まである受験対策授業の始まりに深くため息をついた。
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